問4−4
通話を終えるとテティスは何事も無かったかのようにその場から立ち去っていった。
【残り 15:55:42】
まだまだ、たっぷり残ってる時間。しかし、今回の途方もない問に完全に行き詰まった。思考が止まったその時、後ろから聞き覚えのある声がした。
「よぉ、答えは見つかったか?」
それは今まで行動を共にしていた秋風だった。
「いや、分からない。今回はまるで見当がつかないな。何か気付いたか?」
「合理的に考えて経済力だろ。俺は問を聞いた瞬間にこの答えを想像した」
「なるほど。お前らしいな」
「気持ちじゃどうにもならない。生きていく為に最低限必要なものだろ。綺麗事じゃ生きていけないからな」
「確かにそうだよな」
ものすごく説得力を感じる。綺麗事じゃ生きていけない。現実はどうしても収入が必要だもんな。
「っと思ったんだが、どうもお前はしっくり来てないみたいだな。俺は今までの問で自信のあった自分に答えに何度も間違いを突きつけられた。今回は何となく、自信あるけどこの答えじゃ不正解な気がするよ」
「確かに、思いもよらない所にヒントや答えがあったりするよな。ただ、俺も今回は何にも思いつかないよ。今まで聞いた中じゃ、経済力が最も具体的で有力な気がするけどな」
「そうだな。けど、今までの傾向を合理的に考えて答えに迷いがある時点で疑った方が良さそうだ。確信を持てるような答えを見つけるしかないぞ」
「あぁ、そうだな。けど、ヒントが欲しいがどうすればいいか……」
秋風との会話の途中に、同年齢程の一人の男が話しかけてきた。その男は、見るからに答えが分からずに焦っていた。
「答え何だと思います? 俺、何にも思いつかないんですよ。思いついたら俺にも教えてくれませんか? だって、友情って大事ですよね……?」
男は言葉を発すると、すぐにどこかへ行ってしまった。今度は友情……? 参加者なのか、用意された人物なのか。もう、これ以上惑わさないでくれよ。混乱して何も考えられなくなりそうだ。
「初対面で友情もクソもないだろ。よし、俺はやれる事はやっておきたい。ヒントがないか辺りを見回ってくる」
「分かった。俺は芦屋さんが来るかもしれないし、ここで待つよ。1度状況を整理して冷静に考えてみる。また、後でここで合流しよう」
「ああ。了解」
秋風はどこかへ行ってしまった。一人になった途端に、忘れかけていた絶望感が再び俺に纏わりついてくる。
妻と名乗る女性、家族愛が大事なんだと。その後のコミュニケーション、思いやり、経済力、友情、どれもこれも必要だって?
あと、何がいる? もしくは、どれがいる?
くそっ。分からない……分からないっ!
冷静に考えなきゃいけないのに、全く冷静になれないでいる。
もう、諦めたはずなのに。
親という俺の届かなかった存在に、もう一度ここまで振り回されるなんて。
また、その存在のせいで大切なものを失いそうになっている。
一体、親って何なんだよ。誰か教えてくれよ……。
下を向いて座っていた俺の手に優しい温もりが伝わってきた。そっと顔を上げると、同じような泣きそうな表情で見知らぬ女性が立っていた。
同じようなスーツ姿。参加者だろうか? そう見せかけて実は政府の人間だったり? もういいや。分からない。でも、手の温もりと優しさは確かだった。
「ねぇ、もうこの問で私ダメかもしれない。最後かもしれないし、ぎゅっと抱きしめて? 一人で死ぬの怖いの」
「怖いよね……」
死という目の前の絶対的恐怖に対し同じ感情を持ってる。それだけで、ものすごく親近感が湧いてしまった。
近寄ってきた女性を優しくそっと抱きしめた。小さく震えていた。もしかしたら、気丈に振る舞ったつもりたが俺も震えていたかもしれない。優しい匂い、仄かな温度に僅かな安心感に包まれた。
「ねぇ、最後に……抱いて?」
震えた小動物のような守ってあげたくなる雰囲気。潤んだ瞳、湿った唇。今にでも爆発しそうな欲求を押さえ、呟いた。
「ダメだ。大切な人がいるんだ」
「じゃぁ、キスだけでもいい。最後かもしれないから……。してくれたら、私が思うこの問の答え教えてあげるよ」
「……」
少しでも欲しかった。ヒントが、正解に導く為の何かが。ただ、自分の行動の言い訳だったのかもしれないけど。俺は女性のキスを受け入れた。
「ん……」
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