問4−3

■問4

【親の資格とは】


「そんな、答えなんてあるわけないだろ」


「回答期限は日付が変わるまでよ」


「こんなのどうやって答えろって……」


 俺がテティスに詰め寄ろうとした時、スマホを取り出して誰かと通話し始めた。


「えぇ。もう到着しているわ。いやらしい顔した男にナンパされてたのよ」


「誰がやらしい顔のナンパ男だよ!」


 慌てる俺に動じることなく冷たい顔で返答してきた。


「次のポイントに向かいなさい」


 そう言い残すと、テティスは立ち去って行った。分からない。分からなすぎる。しかし、何とかするしかない。次は電車に乗れって事だな。言われたまま次へと進んでいった。


 言われるがまま駅へと向かって行く。


【スマホを改札にタッチすれば乗れます】


 表示された内容そのまま、タッチして改札を抜けるとそのままホームへと向かう。日常の通勤風景。何も違和感はない。


【次の電車に乗る事】


 ホームへ上がるとすぐに電車が到着した。そのまま乗り込むとある違和感に気付く。ロングシートタイプの座席。一つ不自然に空いた端の席。


【席に座る事】


 指示がすごいな。俺の行動を近くで誰か見ているのかってくらいに的確だな。そして、席に座るとデジャヴな光景があった。


 あの時と一緒だ。対面に座る清楚な女性。だらしなく開かれた足。無防備に下着が丸見えになっている。やはり、どうしても目がいってしまうが俺はもうあの時とは違う。


 斜め前に立っているスーツの女性がいた。確かあの時もいたような……。よく見ると持っているバッグにはマタニティマークがついていた。


 妊娠している事が一目で分かる。まだ妊娠も初期なのだろう。マークがなければ女性を見て妊娠しているなんてとても気付けないな。そして、俺は立ち上がって声をかけた。


「あの、良かったらどうぞ」


「ありがとうございます」


 日常ならここまでのはずだが、今はやはり非日常だと実感する。席に座った女性が俺に問いかけてきた。


「相手を思いやるって大事なことですよね?」


「そう…ですね。大事ですよね」


 ここで言う大事ってのは、やっぱり親としてってことだよな。親に必要な資格。思いやり……なのか?


 あまりにも漠然としすぎている。ただ、無くてはならないものにも思える。答えを見出せないまま、電車は駅に到着した。


【電車から降りて、改札を出て下さい】


 前回を思い出しかなりビクビクしたが、今回は悪夢のような光景にならなかった。いつ何が起こるか分からない僅かな緊張感を纏わせながら指示に従って改札を出る。


 次は地図が表示され指定の場所へ向かうよう誘導されている。


【目的地へ向かって下さい】


 10分程歩き目的の場所が見えてきた。目的地は広場だった。ベンチがあり休憩スポットとしては最適だろう。中央に細長い柱があった。先には時計がついている。円形のスポット、真ん中の柱、まるであの時みたいだな。


 命を天秤にかけられたあの時。答えのない問に答えさせられたあの時。でも、答えは用意されていたんだ。今回も同じなんだろうか。


 ふと、辺りを見ると似たような雰囲気のスーツ姿の人がいる。もしかして、これ全員が参加者なのか? 


 辺りを気にしていたその時、一人の女性が時計の下に歩いてきた。それはさっき見たばかりのテティスだった。


「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」


 その場にいる全員が黙って様子を見ていた。発する言葉、その一文字に神経を集中させ研ぎ澄ませる。どうやら通話が終わったらしい。スマホをしまうと俺達に聞かせるような大きな声で言った。



「仕事で成果を出すって気持ちいいね。やっぱり経済力って大事だもんね」


 なるほど、次は経済力か。1番具体的で現実的って感じがする。生きていく為の必須項目だ。親の資格はこれだって言いたいのか?


 すると、テティスはまたスマホを取り出して通話を始めたようだ。


「分かってるって。答えがわかったら時間までに家に帰って答えをパートナーに伝えればいいんでしょ? はいはーい。じゃあねー」



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