問4
ふわふわとした心地良い感覚。休日の朝、日差しを浴びながらもまだ寝ていられるような幸福感。静かで穏やかで体を優しく包み込まれているような安心感。
そういえば、俺は何をしていたんだっけ……?
夢と現実の狭間で、俺は忘れようとしていたのかもしれない。ただ、そこにある現実から目を背けたかったのかもしれない。
だが、脳裏に深く刻み込まれ離れない凄惨な光景。経験すると忘れられない不快な咀嚼音、吐き気がする程の悪臭。一気に非現実な現実へと引き戻された。意識が戻ったその時、俺は自分の状況が理解できずにいた。
唇に伝わる、柔らかな感触。暖かさ。安心感を与える優しくて甘い女性の匂い。体全体にのしかかる重さ。そして、胸の辺りにも柔らかで心地良い重さを感じる。
鼻に当てられる息。目を閉じとろけるような恍惚の表情を浮かべながら俺の唇に舌先を這わせる女性がいた。
「んっ……ん……ようやく、起きたのね」
「えっ……何してる?」
目の前の女性は理央じゃない。ここは? 見覚えのない室内。ベッドの上。謎の女性。意識調査であるのことは間違いないだろうが、状況が読めない。どうすればいいんだ。
「何ってもう……言わさないでよ。仕事まで時間あるでしょ? エッチしよ……?」
照れながら話す女性の仕草はたまらなく可愛かった。黒髪で清楚な雰囲気なのにイメージとは違う言葉に思わずドキッとさせられた。だけど、俺は裏切れないんだ。
「ダメだって、ちょっと話を聞いてくれ」
「ん……っ……はぁはぁ……気持ちいぃ」
よく見ると女性は全裸の状態で俺の上に跨っていた。言葉で制止してもどんどんエスカレートしていく。
卑猥に腰をくねらせながら、両手で包み込むように乳房を揉み、指先で固く尖った乳首を刺激している。さらに、乳首を狙って口の中に溜めたヨダレを垂らし塗りつけるように先端を弄んでいた。
「待てって。俺には妻がいるんだよ」
理性が吹き飛んでしまいそうな程の刺激的な光景。快感に身を委ねるように甘い声を漏らし俺の耳を犯す。
刺激を送るたびにだらしなく口を開き卑猥な表情を浮かべ俺を挑発する。しかし、何とか奮い立って言葉を発する事ができた。俺の妻という言葉を聞くと途端に笑い出した。
「ふふ。何言ってんの? 妻は私でしょ?」
「えっ? そんなはずない。これは意識調査だろ?」
黙って目を見つめてくる。大きく澄んだ瞳。女性は真剣な表情をするとゆっくりと口を開いた。
「もちろん。意識調査だよ」
「そう……だよな。今回の調査って…」
俺が話終える前に体の距離を縮めてきた。唇が触れそうになる。吐息を感じるこの距離に緊張して固まってしまうが、体を密着させ抱きしめられると顔を耳元に寄せて囁いてきた。
「あなたの……セックスの上手さよ」
信じられないその言葉に思わず目を見開いて女性に問いかける。
「信じられない。今までの趣旨と全然違う。それは本当なのか?」
妖艶な笑みを浮かべながら女性は呟く。
「もちろん」
「嘘だろ……」
馬鹿げてる。そんな事で人の生死を決めるのか? 一体何を基準にする? 好みの問題だろ? もしかして、相性が悪いだけだったら? その時は残念でしたってか?
納得できるはずがない。途方に暮れた表情を浮かべていると、女性はぷっと吹き出し笑いながら言った。
「えぇ。嘘よ」
「おい、嘘付くなよ」
「でもね、家族への愛って大事だと思わない?」
「まぁ、そりゃ当然大事だろ」
「もうこんな時間。そろそろ次に向かわないとね。服はクローゼットに入ってる。行き先はスマホを見てね。気を付けて」
「次……か。ああ。ありがとう」
改めて自分も裸だったかと思うと恥ずかしくなるな。女性に言われるがまま支度をした。クローゼットの中のスーツに着替えた。中にあったカバンの中に俺のスマホを見つける事ができた。
【残り 16:59:09】
今は朝の7時過ぎ。表示されたリミットは今日が終わるまで。今までより長期戦だな。まだ、問すら分からない。だが、何としても生き残る。強い気持ちを持って玄関へ向かった。
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