問3−5

「おい、何かわかったのか?」


「あぁ、答えがわかった。るるちゃんの所へ急ごう」


「本当かい? さっきの問といい、今回といい纏井君すごいね」


 話しながら3人で来た道を戻った。オモチャ屋からエスカレーターに乗り1階へ行き真っ直ぐ歩く。


 そして、もう一度スタート位置である少女の前までやってきた。


「るるちゃんごめんね。人形買えなかったんだ」


 言葉をかけると、とても寂しそうな表情をした。純粋な瞳には涙が溜まり今にも泣き出しそうな、でも何かこらえているように見えた。


「おい、本当に大丈夫なのかよ。泣きそうじゃないか。ペナルティとかないだろうな?」


「纏井君……大丈夫かい?」


 不安そうな二人に構う事なく、再度るるちゃんに声をかけた。


「不安だったよね。一人にさせてごめんね。この先、1番奥にサービスカウンターがあってそこならきっとママに会えるよ。るるちゃん、一緒にママを探しに行こう」


 ママ、の言葉に反応したのかるるちゃんは涙を流した。涙を拭くと差し出した手を取り、握り返してくれた。自分で立ち上がり、付いてきてくれるようだった。


「まさか、たったそんだけの事かよ……」


「あぁ、今回の状況は迷子。少女の願いは、母親との再会だよ。やっぱりあのオモチャはヒントにもなっていた」


【いつも笑顔で優しいママが大好き。休みの日にはいつも一緒にお出かけしている】



「なるほど。母親の存在は子供にとって何よりも大事だよね。纏井君よく気付いたね」


「芦屋さんの言葉のおかげです。模範となる大人の行動、その言葉をふと思い出しました。今、思えばるるちゃんの事より自分が生きるためにどうすればって、そればっかりでした。答えがわかると自分が少し嫌になりますね」


「だからって、こんなことで何人死んだと思ってるんだ?」


「まぁまぁ、時間がないからとりあえず今はサービスカウンターへと急ごう」


 サービスカウンターへ到着した。


 辺りは静かで相変わらず不気味だがカウンターには制服を着た一人の女性がいた。その清楚で品のある佇まいはまるでそこだけいつも通りの日常が流れているように思える。


「すいません。この子、迷子みたいなんです」


「かしこまりました。お呼び出しさせていただきます」


 女性がそう言葉にすると、特に放送があるわけでもなくどこからともなく一人の女性が走ってきた。


「るる、るるっ! どこにいたの?」


「ママ。ごめんなさい」


 二人は強く抱きしめ合った。再会を心から喜んでいる。これはあくまで意識調査なのかもしれないが、目の前で涙する二人に思わず感動してしまった。冷静な秋風に比べ芦屋さんは涙を浮かべかなり感情移入しているみたいだった。


「再会できて良かったね。うぅ…」


 しばらくすると、制限時間が0になった。


「本当にありがとうございます」


 母親は何度も頭を下げていた。二人は光を放ち、形を変えていく。前にも見た光景だった。薄く光る膜へと変化しそれが目の前で幻想的に揺らめく。


「やっぱりか。こんなのがまだ続くのかよ」


「何としても生き残りたいね」


「3人で力を合わせ乗り越えましょう」


 何とか前向きな言葉を口にしたが、三人共、精神的な疲労は相当だった。明らかに表情にも疲れが見える。


「おいっ何だ?」


 秋風がそう口にした時、建物が大きく揺れているのだと分かった。


「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇえええっ!」


「うわあああああああああああ」


 揺れが始まるのと同時に、大声がモール内に響き渡った。全力で逃げ回る人達。四方八方、至るところからウネウネとした生物が出現し人を喰らっている。


 目の前の凄惨な光景は直視できない程に酷い。飛び散る血飛沫、舞い上がる肉体、響き渡る断末魔。


「次の調査へとどうぞ」


 驚きと恐怖で固まっていた体がその優しい声で動いた。受付をしていた女性に促されるまま俺達三人はそのまま膜の中へと進んでいった。


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