問3−4

「これまずいぞ。何のヒントでもない」


「他に何もヒントらしいものも見当たらないよ」


 ようやく見つけた突破口だと思ったのに。くそっ。一体どうしたらいいんだ。まさか本当に……?


「誰かの命と引き換えるのが正しかったのか……?」


 秋風はどこか覚悟を持った表情で呟いた。


 その時、店内が少しざわついた。


「やったぁ。手に入れた。これで俺たちクリアだろ」


 正気とは思えない歪んで見える表情。男2人がオモチャの箱を抱え店を出ていった。少ない人数。店を出ても鳴らない警報。仲間を1人差し出したのか。


「狂ってるな」


「でも、方法が他にないその時は私を……」


 芦屋さんもどこか覚悟を決めた様子だった。


「ダメです!芦屋さんそれは許さない」


「優しいね、纏井くん。その思いやりがあれば、いい父親になれそうだね」


「そんな……」


 思いがけない言葉に思わず心が揺さぶられた。こんな俺でもいい父親になれたのかな……。


「おいおい、そんな綺麗ごとを言っても今の状況はまた1からのスタートになったんだぞ。次はどうする?」


 確かに正解に辿り着けたと思ってからの再スタートは精神的に心が折れる。正解とばかり思ってこうなった時のことを何も考えていなかった。ちらっとスマホを見る。


【残り 30:27】


 時間的にももう半分。あと、俺たちに何ができる? 焦りばかりが増す。頭から飲みれて噛み砕かれる記憶が甦る。冷静になろうとすればする程頭が回らなくなってくる。すると、秋風は続けた。


「何の考えもないくせに理想ばっかり言いやがって。全員がその理想を叶えたいと思ってる。でもな、叶わないって現実もある。理想ばかり語る父親ってのが俺にはいい父親だなんて到底思えないがな」


 くそっ。悔しいがその通りだと納得させられた。何も言い返せなかった。なら、俺はどうしたらいい? 理想を叶える為に。考えろ……考えろ考えろっ!


「纏井、腹を括れ。時間が差し迫った時、芦屋さんに犠牲になってもらうんだ」


「それはダメだっ!」


 大声で秋風に反論した。しかし、口だけじゃダメだ。状況を整理し突破口を見つけるんだ。俺達は先へ進む。こんなところで諦めてたまるか。


 少女の願い。情報は名前のみ。ヒントは広告の紙。そこから繋がったさらなるヒント。それがこの、るるちゃんの情報……。


「やっぱりこの箱にヒントが隠されているんじゃないか?」


「それはない。俺も合理的に考えた末にこう言ってる」


 何度も何度も、簡単な説明文を読み直す。


【るる】

人見知りで恥ずかしがり屋。おとなしい性格の女の子。かわいい服を着てオシャレしたり、甘くておいしいアイスクリームが好き。友達とたくさんのお人形で遊ぶのも好き。いつも笑顔で優しいママが大好き。休みの日にはいつも一緒にお出かけしている。


【甘くておいしいアイスクリームが好き】


「まさか……アイス……か?」


 その言葉に秋風はすぐに口を開いた。


「俺も怪しいと思ったが、たぶん違う。なぜなら、合っていたとしてもアイスを買うのにまた金がいるだろ? だったら誰の命でアイスを買う?」


「なるほど。これも違うってわけか」


「そうだ。もうこの選択はないと判断して言ってるんだよ。もう詰んでるってな」


 ここで、ずっと黙っていた芦屋さんが話始めた。


「秋風君の言う通り、その時がきたら犠牲になるのは私で構わない」


「いえ、僕は絶対に諦めません」


「ありがとう。しかし、あの子の願いって何だろうね? 直接言ってくれたら簡単なのにね」


 秋風は芦屋さんの言葉に呆れた様子で反応した。


「だから、こうして困っているんです。結局、何を渡すにしてもお金がいる。誰かが犠牲になるしかないんだよ」


「やっぱり男って女心は分からないんだよなぁ。私があの子ならお金がなくても欲しい物をこのモールの中走り回って探して、かぶりついて見つめているだろうに。何が欲しそうってわけでもなく一人で座り込んでさぁ」


 「いやいや、芦屋さん。女心って……えっ?」


 今この瞬間、俺の中で何かが繋がった気がした。


 俺の脳がフル回転している。芦屋さんの言葉が何か引っかかった。


 確かに子供だったら自分の興味だけで好きなお店に走って行ったりしてしまいそうだが……それは人それぞれの性格による気がする。っていうかそもそもこの現状だ。意識調査として用意された政府側の人物だし、あの場所から動くって発想がなかった。


 座っていた女の子。ヒントの広告を受け取った。通常通り開いている店。確か女の子が好きなアイス屋さんもあった。可愛い洋服のお店。オシャレな小物があるようなお店。人形が売っているオモチャ売り場。


 そのどれもが手に入れる為にはお金が必要だった。そして、それと引き換えに命の犠牲。たぶん、どれも正解じゃない。何が1番なのか分からないから。


 なら、1番に近そうな答えを予想する? いや、子供の1番なんて気分次第で変動しそうなものだ。あの子があの場所で座り込んでいた理由。揺るがない少女の願いってのは……。


『模範とする大人の行動を考えればって事なのかな?』


 芦屋さんの言葉がフラッシュバックする。そうだよ、今テティスの意図を思い出した。この調査の目的。子供を導く優れた大人の選別。答えはこれしかない。


「1階だ」


【残り 18:50】

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