問3−2

「不思議な感覚だな」


 秋風が呟いた後、俺も周りを見渡した。上りエスカレーターに乗っている間、色々見渡したがどの店も普通に営業している。


 そこは何ら日常と変わらない。3階に見えるアイスクリーム屋は普段は若い子の行列ができるような店。なのに、客が1人も並んでいなかった。


 通路にいくつかのグループがいる事に気付いた。こちらの様子を伺ってる感じでもある。


「他の生き残りだよな? 生き残る確率を上げる為に全員で協力すべきなんじゃないか?」


「それはダメだ。何があるかわからない。様子を見たほうがいい。問の内容がこんな簡単に終わるとはとても思えない」


「さっきの問もそうだったからね。最後まで気を抜かない方がいいね」


 4Fに到着すると、オモチャ屋の方へと向かった。


 既にオモチャ屋の前には別のグループもいた。


 そこで改めて感じる謎の違和感。


「何かおかしいよな……?」


「あぁ。本来、用が済めば長居する必要はないはずだが……」


 なぜ、何もせずじっとしている? 一体何があるんだ?


「考えてもわからないね。とりあえず、これを探そうか」


 俺達3人はオモチャ屋の中から丸が記された物を簡単に見つけることが出来た。るなちゃんのドールハウスセットか。


「これだ。るなちゃんのセット。何だよ、何もしない奴らがいるから売り切れかと思ったじゃねぇか。あとはこれを届ければいいだけだろ?」


 違和感の正体を掴めぬままレジへと向かった。


 何一つ変わらない、いつもの作業。


「それではお預かりしますね」


 変わらない受け答え。何も不自然さはない。むしろ、丁寧な女性店員の対応に日常を思い出す程だった。


「こちらの商品は1万円ちょうどです」


 レジにも同じように金額が表示された。


「……」


 冷や汗が流れた。そうだ。ない。財布がないんだ。


 そうだスマホで決済……。


【残り 51:47】


 どう操作してもタイマーの画面から切り替わらなかった。後ろの2人を見るが状況は同じだった。


 そうか……。こういう事だったのか。


 どうやって手に入れたらいい? 残る手段は?


「くそっ、だから店の前の奴らは持っていけなかったのか」


 秋風は大声を張り上げていた。芦屋さんも為す術もない状況に困っている。


 冷静になれ! 何か考えろ! 死ぬ気で脳を回転させるんだ!


 今、どうしても手に入れたいなら………万…引き?


 いやいや、考えられない。犯罪なんて絶対ダメだ。やってる事はめちゃくちゃだが、仮にも優しさの調査なんて言ってる連中だ。バレたと思うと思わず震えるな。


 一体、どんな人間を求めてる? わからない! わからないけど、何としても手に入れなければどのみち殺される。命はないんだ。なら、いっそ……


「あの、これやめ……」


 俺が女性店員に話しかけようとしたその時、誰かが勢いよく走り去った。手に何か持っている。そして、店を出た途端にけたたましい警報音が鳴り響いた。


 鳴り響いたかと思うと同時に、天井から筒状の何かが走る人めがけて落ちてきた。人をすっぽりと覆う大きさだった。


 ドンッという地響きと共に気持ちの悪い肌をしたそれはウネウネと体を揺らし咀嚼を始める。それと同時に轟く断末魔。


「うぎゃあ゛ぁぁぁあああああああああああ」


 この調査中に幾度となく耳にしたが、何度聞いても悪寒が走る。震える。あれだけは絶対してはいけないと改めて決意する。


 音がしなくなるとそれは天井へと戻っていく。亜空間から来たのか膜のようなものがあり天井が壊れているわけではなかった。もう、今は何が起きても驚かない。ただ、生き残る方法を模索するのみ。


 それがいなくなった場所には大きな血溜まりが出来ていた。万引きという方法の末路がそこにはあった。


 力では敵わない。こうなったら思いつく限りの事をするしかない。俺は思いつきで言い放った。


「すみません。訳あって手持ちのお金がないんです。後で必ず払いますから商品をいただけませんか?」


 少し間を置いて、女性店員は言った。


「代表の方のみこちらへどうぞ」


 新しい展開か……。何かヒントになるものがあるといいが。


「ちょっと行ってきます」


「気を付けて」


 芦屋さんは心配そうに見送ってくれた。


 そのまま店員についていくと、奥の事務室に通された。ここで一体何があるっていうんだ。


「えっとお金の件ですが……」


「どうすれば?」


 店員は信じられない言葉を口にした。


「1人の命を差し出せば、1万円差し上げます」



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