問3
テティスが指示した膜を通り抜ける時、少し前の出来事を思い出し理央に会いたい気持ちが一層強くなった。
そして、辺りを見ると日常に戻ってきたかのような光景だった。
だが、拭いきれない圧倒的な違和感。
「人がいないって何か不気味ですね」
「あぁ、そうだね。日常ではまず考えられないなぁ」
芦屋さんも相槌を打ちながら辺りを見渡している。そこはショッピングモールだった。いくつもの店舗が並び人で賑わっている印象があるが、今は普段では考えられない静けさだった。
見上げると、上にも店舗がありかなり広い場所であることが想像できた。
「次はここで何をさせられるんだろうな」
秋風がそう言葉を漏らすと、3人ともすぐに次なる違和感を見つけることが出来た。
店舗と店舗の間。通路の真ん中。買い物に疲れた客が休憩できるようになったスペースに1人の少女が腰かけていた。
まるで人形のような顔、透き通る曇りのない瞳。
そして、これまでの恐怖を呼び起こす帯が少女の横に浮かび上がっている。
■問3
【少女の願いは何か】
【残り 59:59】
俺たちが彼女を見つけるとカウントがスタートし始めた。
「相変わらず、何が言いたいのか意味不明だな。子供の考えてる事なんて分かるわけないだろ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。今回の時間制限は1時間みたいだね。まずは、女の子に話を聞いてみようか」
芦屋さんに促されて女の子に話しかけてみた。
「こんにちは、お話していいかな?」
女の子は輝く瞳を向けたままだった。しかし、時間制限がある中いつまでも待っていられない。質問を続けてみた。
「俺は纏井っていうんだ。名前は?」
「……」
しばらく待っていたが声を発してくれる様子は無かった。ただ、ずっとどこか不安そうな目をしている。
「いきなり声をかけられてびっくりしたよね。ちょっと聞きたい事があって……君の願い事教えてくれないかな?」
「……」
【残り 56:23】
ただ、黙ったままの女の子。焦ってはいけないと思いつつも気持ちは焦る。
「こんな事で命を失うのかよ?」
「まぁまぁ、子供相手なんだ。焦ってはいけないよ」
苛立つ様子の秋風を上手く芦屋さんがなだめてくれている。このままじゃまずい。何とか、ヒントを得なければ。
焦りと同時に、なぜか俺は胸が痛くなった。
そういえば、子供を授からないあの時も……。成果が出なくて焦ってばっかりだった。その結果、何一つ上手くいかなくなったんだ。
どうしようかと悩んでいるとき、芦屋さんはまるで女の子の祖父のような優しい言葉と笑みを女の子に贈った。
「話したくなったらでいいんだよ。待ってるからね」
その言葉に反応したのか、女の子はゆっくりと手のひらを差し出した。その手には折り曲げられた紙があった。そのやりとりに俺は思わず心が震えてしまった。
「ありがとう。見るね」
芦屋さんがそれを広げて、俺と秋風は横から見た。
「どうやらオモチャの広告みたいですね」
そして、その中の1つのオモチャに赤い丸で囲まれている物があった。
「願い事……きっとこれの事じゃないかな?」
「恐らく間違いないだろう。よし、オモチャ売り場に行くぞ」
2人はショッピングモールの地図を探し始めた。どうやらすぐに見つかったようだ。
「4Fにある。行こう」
俺は寂しそうで儚げな女の子に言葉を残した。
「俺たちが願い事叶えるから、待っててね。えっと……」
名前が分からずに困っていると初めて女の子は声を発した。
「……るる」
「教えてくれてありがとう。すぐ戻ってくるよ。るるちゃん」
ほんの少しだけ心を開いてくれた気がした。名前を聞いただけなのにこんなにも微笑ましくなるなんて。この子の願いを絶対叶えてあげたいと思った。
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