問2−3

「皆、回答は終わったな。結果を発表しよう」


 しばらく、静寂の時が流れた。微動だにしない天秤に焦りを覚える。


 動け。動けっ!


 理央にもう一度会いたい、こんな所で終われない。それに、二人の命まで背負ってしまった。間違ってましたじゃ済まされない。


 必死に祈る。


 すると、ゆっくりと天秤は動き出した。悲鳴とともに辺りはどよめく。


「答えは大人の命だ」


「何でだよ! 納得できるかよ!」


 良かった……。何とか正解できた。が、今は正解に安堵できるほど穏やかな状況ではなかった。


「説明しろよ! 命の重みは同じなんだろ?」


 テティスは黙ったまま動かない。まるで、話を聞いていなかった。


「改革を開始する」


 宣言した途端、辺りにいる人達の足元に円形にヒビが入った。そして、そのまま床は突き抜け落下していく。


「ゔわぁぁぁぁぁっぁぁああああああああああ」


 叫び声が聞こた後、肉を裂き、骨を砕き、咀嚼を思わせる不快な音が幾度となく脳に響く。不快感で思わず体が震えた。


 不思議な事に割れた床はすぐに落ちないように再生していた。これで誤って落下する事もないだろう。


「おい、どういう事なんだよ?」


 不思議そうな秋風が説明を求めていた。直前まで、動くはずがないと思っていたし、納得していないんだろう。


「簡単だよ……命の重みは同じだからだ」


「いや、だったら……」


 反論する秋風を遮って、俺は話を続けた。


「大事なのはここからだ。


 問題は命の重みを問うものではない」


 問【秤はどちらに傾くか】


「まさか、そうか……」


「そうだ。秤の上には命の玉以外にもあの板がある。あのくり抜かれた板の重さも考慮しないといけなかったんだ。だから、単純に質量の問題なんだよ。考えてみれば当然だ。あれも秤の上に乗ってるんだから」


「なるほど。あれほど大きさが違うのに重さが同じって事は、小さくて比重の重い大人の命の材質でできた板の方がはるかに重いってわけだ」


「そうだ。それをあの短時間では落ち着いて説明できなかった」


「我々こそ助かったよ。ありがとう、纏井くん」


 芦屋さんが話終わると突然、黙っていたテティスは手を上げた。すると、天秤は輝き出してまたも形態を変化させる。


 前の方に倒れ込んだかと思うと、それはこの空間に来た時と同様に、道となり先へ延びる。その先には扉のような形になった薄い膜のような物がゆらめいていた。


「さぁ、次の問に進むがよい」


「何でこんな酷い事を?」


 おもむろに芦屋さんはテティスに訪ねた。


「未来が酷くならない為だ」


「こんなことをしなくても他に方法があるんじゃないか?」


 少し間を置いて、テティスは語りだした。


「子は大切で儚く尊い。守るべき存在だ。そして、育ったその子らは大人になる。次世代へと引き継ぐ番だ


 ただ、人の子は勝手に育つわけではない。誰かが育てていくのだ。しかし、育てる人間が愚かならば子もまた愚かな大人になる。その連鎖を断ち切る為の選別なのだ


 あんな容易な問にすら正解できない、自分の頭で考えられない他人の言いなりになるような大人はやり直して当然」


 テティスは次の問へと言い残し姿を消してしまった。俺達3人は足取り重く指示された膜へと突入して行った。

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