問1−2
やべっ。前が気になって仕方がない。周囲の目も気になるが、もうどうにもできない。1人で焦っているその時、電車のスピードが落ちてきているのを感じた。
■車内にて指示を待て■
まだ、スマホを見ても指示は変わらない。よし、仕方ない。ここで待つしかない。謎の義務感で自らを正当化する事にした。
ゆっくりと速度を落としていく。駅名のアナウンスなどはなかった。電車が止まり扉が開いたようだ。
その時、俺の中の悪魔が心を支配する。
できれば、そのまま起きないで。
そして、できれば前に人来ないで下さい。壁にならないで下さい。お願いします。お願い……。
渾身の祈りをしていると、新たに乗り込んできた女性がいた。ゆったりとした洋服を着ている。キョロキョロと辺りを見渡している。席が空いていない事を確認すると、入ってすぐのバーを持ち俺の横に立った。
よし、セーフ。耐えた。もう、乗り込んでくる感じじゃないな。
そして、目の前の女性も動く様子はなかった。スマホに指示を知らせる連絡もない。
いつまでこうしていればいいのか不安しかないが、とりあえず今は目の前の事に頭がいっぱいだった。
ただ、何気なく乗り込んできた女性の方を見たとき違和感があった。もう一度女性をよく見る。俺のバカ野郎。
どこがだよ。セーフじゃないだろ。
よく見るとその女性はお腹が膨らんでいた。手のひらを当てお腹をさすっている。どう考えても妊娠しているように見える。
すかさず立ち上がり、女性に声をかけた。
「よければ、どうぞ」
「すみません。ありがとうございます」
席を譲り感謝され、嬉しい気持ちになったがほんの少しの悔しさがあったのも悲しい事実だった。
座席の端のバーを持ち駅のホームを見た。
薄暗い場所だな。ここ本当にどこだよ?
駅名を表示する看板がどこにも見当たらない。すると、目の前の異変にようやく気付いた。
えっ?
【下車して下さい】
帯のような物に指示があった。その帯は宙に浮いていた。まるでVRの空間にでもいるかのように何もない所に帯と文字がある。
【扉が閉まるまで あと03秒】
【扉が閉まるまで あと02秒】
【扉が閉まるまで あと01秒】
カウントが進んでる!
やべっ、何してんだ俺。扉が閉まる直前に慌てて飛び降りる事ができた。
「はぁ……はぁ……」
むちゃくちゃだな。急すぎるだろ。
飛び降りた後、すぐにスマホが振動した。スマホを見ると画面が切り替わっていた。
【問1】
●降りる
降りない
ん? 俺は降りるを選択したってことだな。わざわざまどろっこしいんだよ。ってかこれ何の調査だよ。訳分かんねぇ。
すると突然、駅のホームにアナウンスが流れる。
『危ないので黄色い線の内側までお下がり下さい』
いやいや。電車動く気配ないし、何が危ないんだよ?
疑問に思っていると、とある異変に気付いた。明らかに電車に乗っている人数が減っている。
俺の対面の人も……消えた?
そして、中に取り残された人は急に慌て出した。何かを叫んでいる。ドンドンとドアを叩いている。
一体、何でそんな暴れてるんだ?
皆、この世の終わりのような表情をしている。
ゴォォォンッッ!!ドォォォン!ドォォォン!
え………えっ?
声にならなかった、目を耳を疑った。
さっきまで乗っていた電車は、上から落ちてきた巨大な剣山のような無数の鋭利な針に押し潰されていた。しかも、それは何度も何度も押し潰す。
まるで巨大な怪物の咀嚼を思わせる悪夢のような光景だった。電車は跡形も無く噛み砕かれてしまった。
「おい……嘘だろ。死んだのか……?」
中の人は……。想像するのも辛いな。
あ然として何もできないでいると、手に持つスマホが震える。
【先へ進んでください】
体が勝手に動く。目の前の状況が俺の抗う意思をも粉々に砕いていた。
進行方向のホームの先に目をやると、出口を思わせる光が見える。まるで希望の光のように輝いて見える。
今の状況から、纏わりつく不安から、少しでも逃げたかった。一心不乱に光へと急ぐ。
ただ、まっすぐに歩いて光を目指した。そこで見た光景は現実とは思えない夢のような空間が広がっていた。
「何だこれ……」
トンネルから出た道の先。辺りには雲海のような景色が広がり幻想的で美しい世界が広がっていた。
ホームの延長線上に続く道はそこまで狭いわけではないが、万が一落ちたらと思うとゾッとする恐怖も同時に覚えた。
行くしかないと心に決めてまっすぐに道を進む。辺りを見渡すと多方面にトンネルがあり同じように道がまっすぐ続いている。
そして、中央は広場みたいになっておりそれぞれの道はそこに集約されているのだと理解した。よく見ると人が集まっている。それぞれ延びた道からも人が中央に歩いて行ってるのが見える。
とにかく誰かと話がしたかった。状況の確認がしたかった。俺も真ん中の広場へと向かっていく事にした。
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