問1

 体が一定のリズムで心地良く揺れる。


 聞き慣れた音が優しく俺を起こした。


 ゆっくりと目を開く。そして、思考を巡らす。


 あれ、俺何してたんだっけ?


 昨日は家に帰って、理央と話してたよな。


 他愛もない事を話したあと、スマホを触ってたんだ。確か、チャットアプリに届いていた政府の意識調査をしようと開始を押したんじゃなかったかな……。


 ってかちょっと待てよ。帰宅したあと、外出した覚えはない。ここはどこだ? 不意に周囲を見渡す。


 対面に人。横にも人。7人程座れるロングシート。どうやら俺は端に座っている。ちょうど席が埋まる程の人数で、混んではいない。何人かは立ってる乗客もいる。


 対面の奥に見えるガラスの向こうが真っ暗だ。どう考えても、電車で間違いない。が、地下鉄か……?


 なぜこんなところにいる? 状況が全く分からない。


 そうだ。いつも右ポケットに入れているスマホを取り出し、モニターを表示した。


 何だ……これは……?


【意識調査】

■車内にて指示を待て■


 真っ暗の画面に浮かび上がる不気味な文字。一体どうなってる? 他にスマホを操作しようとしても反応がない。


 おいおい。指示って誰の何の指示だよ。訳がわかんねぇ。これが意識調査? いや、待て。俺の体を誰が運んだんだよ。起こさずに電車に乗せるなんて普通にありえないだろ。


 俺の疑問に誰かが答えてくれる訳でもない。車内にはただ静かな時間が流れていた。


 ふと、車内の広告が目に入る。


『必要としている方に座席を譲りましょう』


『虐待だと思ったら迷わず連絡を』


『痴漢は犯罪です』


 辺りを見渡しても、普段利用する電車と何も変わらない。多くの人がスマホを持ち何かに夢中になっている。


 斜め前に立っている人、スーツ姿の女性。腕にバッグを提げ、キーホルダーが付いている。


 辺りを見ても何一つ解決する訳ではないがじっとしてるのも落ち着かない。ただ、状況も分からないまま何ができるわけでもない。とりあえず、今は連絡か指示かわからないが待つしかないのか。


 ふと目の前の対面の女性が目に入った。ようやく冷静になってきた状態で、改めて見るとめちゃくちゃ綺麗な人だった。


 落ち着いた大人の雰囲気。清楚で上品。寝ているのか目を閉じていても分かる程の美人オーラを纏っている。


 小さく整った顔。鎖骨程まである髪は光輝いていた。俺には分からないが着ている服まで品があり高級に見える。


 どこかで聞いたが、何を着るかじゃなく誰が着るか。まさに、その通りだと実感する程だった。


 だからこそ、信じられなかった。自らの目を疑った。


 そんな品のある女性のだらしなく開かれた脚。膝上ぐらいのスカートのその奥。ちょうど俺の座っている席からは下着が見える状態だった。


「ぇ……」


 うぉぉぉ。まじかよっ!


 思わず小声が漏れた。一度気づいてしまったら、悲しい男の性か、チラ見が止まらなくなってしまった。そして、目を閉じているのをいいことにガン見してしまっている。理央ごめん。許してくれ。


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