第3話 夜の電話

「えへへへ、じゃ、たぶん夜に連絡するから。またその時まで!」


 僕から手を離した星月さんはくるっと振り返りこの場所を離れようとする。


 僕は何となく気になっていたことを聞く。


「なんで黒田さんに彼氏がいることを知らなかったの? 君たちめった仲いいよね?」


「あ、そのことね! 知ってたよ!」


「知ってたの?」


 これまでの反応だと知らなさそうなだったけど。


「いや、逆に知らないわけないじゃん……まあ、正式に付き合ったのは一昨日だけどね。みーちゃんが一昨日に17歳の誕生日を迎えたことは知ってるよね?」


「うん、プレゼントは送れなかったけど盛大に心の中でお祝いしたよ!」


 一昨日にあった黒田さんの誕生日はすごかった。クラスの内外問わず、まるで女王の誕生日に湧く国民のような盛り上がりを見せていた。


 普段あんまり話してないひとに誕生日だけ話しかけるのは良くないと思います!


 ともかく、男は近寄れないような環境だったし、何よりオーラがやばすぎて普段から僕はあまり近づけない僕は、心の中と自分の部屋で黒田さんの誕生日を祝ったよ!


「直接祝った方がみーちゃんも喜んでくるよ……その誕生日でみーちゃんが17歳になったじゃない? それでその彼氏と正式に付き合うことになったみたいだよ。もとから婚約者みたいな間柄で、お互い好き同士だったからね!……私たちとは違うみたい」


 なるほど、貴族みたいな凄いお話だ。


 ていうか彼氏さんは何歳なんだろうか? 同級生ならすぐに仲良くなれそうだけど。


 そんなことを考えながら首を傾けていると星月さんのクスクス笑う声が聞こえる。

「どうしたの、星月さん?」

「あ、ごめん。伊織君の顔見てたらさっきの教室の咆哮思い出しちゃって」

「……聞いてたんだ」

 あれ聞かれてたんだ……今思い返すと相当気持ち悪かったし……恥ずかしいんだけど。


「うん、ディアブロスみたいですごく面白かった……今は大丈夫なの? あれみーちゃん関連でなったんだよね?」

 そう言われるとなんだか今は最初よらり気持ちが楽で、なんというか黒田さんの事をあまり引きずってないというか……ああ、そうか。


「いや、今はなんか安心したというか気持ちが楽になったというか……ほら、君と一緒にいれば黒田さんとも仲良くなれる可能性があるってわかったし、それに……」

「それに?」

「ううん、何でもない。取りあえずもうあんなことにはならないかな」

 言いかけた言葉を飲み込む。

 それが本当に僕の気持ちかわからなかったから。


 僕の言葉に星月さんはすこし不満そうに頬を膨らませる。

「えー、気になるなぁ……でもまあいいや、どうせ大したことじゃないだろうし! それじゃあ伊織君また明日!」

「あ、星月さん一緒に帰らない? もう遅いし」

「……そうしたいのはやまやまだけど伊織君は友達が待ってると思うし。それに……ちょっと恥ずかしいし。だから私は一人で帰ります!」

 ピシッと腕を上げる星月さん。


「わかった。それじゃあまた夜だね星月さん」

「うん、また……あ、そうだ」


 そういってくるっと再び振り返る。

 真っ赤な夕焼けが背中に輝く。

「これからもよろしくね、伊織君!」

 満面の笑みがきらりと光った。



 ☆


「お、伊織、お帰り! 良かった無事で……よかった!」


「え、何、真斗、かなりきもいんだけど」


「心配してあげたのに酷くない!? 待っててあげたんだよ!?」


 星月さんと別れた後教室に戻ると真斗がいた、待っていた。そして反応が気持ち悪かったです(日記)


「はあ、まあいいや、良かったよ、お前が死んでたり病んでたりしなさそうで、大丈夫そうで。それじゃあさっさと帰ろうぜ、もうカラスがカアカア鳴いちゃってる」


 そういってカバンを持ってそくそく帰ろうとする真斗。


 僕も急いでカバンをとってその後を追った。

 


 ☆


「ただいまー」


「あ、伊織お帰り、遅かったね。ご飯できてるからちゃっちゃと着替えて食べちゃいなさい」


 家に帰ると母さんの声とともにご飯の匂いが漂ってきた。いつものお家だ。


「はーい……父さんと真帆ちゃんは?」


「お父さんは残業、真帆は講習……気楽に真斗とトランプして遊んでるのはあんただけよ」


「げ、なんで真斗とトランプしてたのわかったの」


「そう顔に書いてあるのよ。ほら、ちゃっちゃと着替えて手を洗って着替えてご飯食べちゃいなさい」


「はーい」


 母さんにすべてを見抜かれていたので、僕はおとなしく着替えることにした。


 匂い的に今日のご飯はカレーかな?


 


 ご飯を食べ終え、お父さんと妹の真帆ちゃんが帰ってきて、ふにゃーと部屋でゴロゴロしていると携帯の通知音が鳴った。


 時計を見ると11時。いつもよりちょっと遅い時間だ。


 電話をとると星月さんの声が聞こえる。


「伊織君今日もいい夜だね! 単刀直入だけど日曜日にみーちゃんが彼氏とデートするらしい! 一緒に見張りにいこうよ! ろくでもないやつだったら彼氏さんをぶっ飛ばすよ!」


「ぶっ飛ばすって……んな物騒な」


 なんだか過激な星月さん。こんなこと言う人ではないんだけど。


「まぁまぁそれくらいの意気ってことで!⋯⋯あと、これはお願いなんだけど、自然にバレるまでは付き合ってるのを黙っていてほしいの。その⋯⋯いつも通りって言うか、そんな感じで!」


「なんで?」


 付き合っていること言わないとダブルデートも何にも始まらないと思うけど。それとも何か考えがあるのだろうか?

「だって、その⋯⋯なんか恥ずかしくなってきたから!」


 予想以上にシンプルな答えが返ってきた。


 どうやっても恥ずかしいのは回避できないと思うけど、まあ星月さんがそういうならそうしようかな。


「OK、了解」


「ありがとう⋯⋯あ、そうだ今日の野球みた?」


「うん、見たよ! 凄かったね」


「そうそう! あの伊藤選手の⋯⋯」

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