第4話 朝の話
「よー、伊織、ちゃんと学校これたみたいだな! 気が変わってなくてよかった!」
次の朝、いつも通り登校しようとしてるとハイテンション真斗に肩をポンポンたたかれた。
朝から元気な奴だな。
「学校休むわけにはいかないしね。それに、好きだったけど恋愛はあきらめてるとこあったしね」
「ま、それもそうだよな……思い返せばお前ってずっと高根の花というか、届かない恋というかそんな感じの人ばっかり好きになってたよな」
「そうだっけ?」
「そうだよ。小学校の時は保健室の先生にずっとぞっこんだったし、中学の時もみんなの憧れ生徒会長! みたいな人だったし、今では黒田さんだし」
「あー、そういえばそうだったような……」
「そうだったようだじゃねーよ、ちょっと前のことだぞなんで忘れてんだよ、心配なるわ」
「へへへ」
「ほめてないよ?」
確かに言われてみれば、これまで僕が好きになった人は高嶺の花みたいな感じの人だった気がする。でも、そういう人にひかれるのは動物として正常な反応だと思います!
「……お前も今回のことでちょっと心切り替えて普通の恋愛というか、身の丈に合った恋愛というか、そういうのにシフトしていこうぜ。叶わない恋ばっかじゃなくて現実的なさ」
恋か……偽装の結婚の約束までした僕はこれから恋する機会は訪れるのかな?
そんなことをぼーっと考えていると真斗が心配そうにのぞき込んできた。
男にのぞき込まれても興奮しないんだよな、これが。
「……どーしたんだよ、そんな顔して。もしかしてあれか? もうすでに新しい恋始めちゃいました! 的な話ですか?」
「え! ……あ、いや、そんなことじゃないよ、ちょっと今後について考えてただけ!」
なんか微妙に鋭いな!? 恋じゃないけど始まったよ!……とは約束しちゃったから言えないことだ。
「えー、何その反応は! え、何? マジで新しい恋始まっちゃってんの? 誰だれ、星月さん? もしかしなくても星月さん?」
「違う、違う、何も始まってないから! 全然関係ないことだから!」
やばい、半分図星突かれてちょっときょどってしまった。約束破ってしまう、平常心、平常心。
「……え、何その反応、マジで付き合ってんの? 昨日の今日ではちょっと……」
「いや、違うから、そんなのないから引かないで……というか真斗、お前はどうなんだよちょっと前彼女と別れてたけど新しい恋始まってないの?」
「強引に話し切らないでくれます?」
「いや、ほ、ほんとに何もないからね! だから根ほり葉ほってもなーんにも出てこない、って感じ!」
そう僕が言うと真斗はむー、と頬を膨らませ、そのあとちょっと神妙そうな顔をする。その顔は男がしてもかわいくないぞ。
「なあ、伊織……お前女の子と出かけたこととかないのか? ずっといじってたけど、高2にもなって理想ばっかじゃさすがに親友として心配になるぞ」
「そっちも話し切ってんじゃん……いや、それくらい僕もあるよ」
「え、あるの? マジ? 誰と? どこに?」
「英語の教科書かよ、ちゃんと話すから落ち着きなされ。最近は……先週くらいかな、1年生の子とちょっとお茶しに行ったんだ。ほら隣町の、えっとー……そうだ、メタマルフォーゼってお店」
僕がそういうと真斗の目が一気にきらめく。獲物を見つけたサメの目だ。
「おいおいおい、メタマルフォーゼっていたらカップル半額御用達!のピンクのふわふわスポットじゃねえか! ……正直に言え、本命はこっちだろ?」
サメの目の真斗の言葉に僕はひょいひょいと首を振る。その目怖いからやめてもらっていいかな?
「違うよ、お礼がしたいって連れていてくれたんだよ。ほら、この前僕ワンちゃん探してたじゃん?」
「あー、あの大雨の」
「そう、お前が手伝ってくれなかった奴。その時見つけたワンちゃんの飼い主がその1年生の子でそれのお礼で連れて行ってもらったんだ。だからお前の期待しているようなことはなんもなかったよ」
「いや、そこに連れていかれたってことはその子はそういう……まあ、お前がそう思うならそれでいいか。俺の恋愛事情はあれだ、今はちょっと休憩中、恋には充電も必要だからな!」
ちょっと納得いかなそうな表情だったけど、それを吹っ飛ばすように歯を光らせながらキラッと笑う真斗。
眩暈がしそうなハチャメチャ眩しい笑顔が朝日に輝いていた。
やっぱり朝から元気な奴だ。
☆
「革靴って食えるらしいぜ」
「それ靴脱いでるときに言うこと? お腹空いたの?」
「あ、先輩、おはようございます! 隣の方も!」
後ろから元気のいい声をかけられて振り向くとさっき話した後輩―藤川香菜ちゃんが茶髪のテールを揺らしながらニコニコ笑顔で立っていた。
耳元で「この子が例の後輩?」と真斗が聞いてくる。そうです、例の後輩ちゃんです。
「香菜ちゃんおはよう……あ、こいつは幼馴染の鷹岡真斗」
そうしてちょっと気まずい「おはよう」の応酬。この空気、名前を付けたい。
「先輩はいつも幼馴染さんと登校しているんですね! 今日はいつもより早く来られたんですか?」
「ううん、いつも通りだけど……どうして?」
「いえ、いつもはこの時間に見ることはないので……あ、先輩今度またお茶しましょうね! それじゃあ!」
そういってピシッと敬礼ポーズをして教室にかけていく香菜ちゃん。
「めっちゃいい子じゃない、あの子……」
後ろで真斗がつぶやく。僕もそう思う。
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