覚悟を決めた女と男

「殺せよ。やれ。僕も、母上やテレーズのように殺せば良いだろ。早く。それを狙っているくせに。」


 リナは剣を突きつけたままで、里桜が遠ざかっていくのを確認した。


「王子、それはどなたから聞いたのですか?」


 リナの問いかけにフェルナンは答えようとしない。モルガンが側に転がった剣を拾った。


「クリストフ様。王子をお願いできますか?取りあえず、この事は誰にも話さないで下さい。」

「あぁ。」

「私とモルガン様で事の次第をまずは団長へ話に行きます。」


 そして、それぞれ違う方へ歩き出した。



「それで…リナは稽古の相手をしたのか?」

「はい。」

「モルガンは?」

「…」


 リナの視線を感じて、モルガンはしぶしぶ話し始める。


「お二人を止めましたが、リナ様が少しやれば王子も気が済むからと仰いまして…」

「それで、王宮の廊下で手合わせをしたと?」

「はい。」

「今、王子は?」

「クリストフが王宮の客室へ連れて行きました。」

「モルガン、クロヴィスをここへ呼んできてくれ。」

「…はい。」


 モルガンが出て行くと、部屋にはリナとジルベールだけになった。



「リナ。これがどんな事だか分かって言っているのか?」

「分かっています。」

「正当な理由もなく王子に怪我を負わせたら、お前は侍女の仕事を失うんだぞ。」

「分かっています。覚悟の上です。」

「本当は王子が王妃に斬りかかった・・」

「閣下。王子様は、王妃様がアリーチェ様とテレーズ様の命を奪ったと言っていました。そして、王子様の命も狙っているんだと。」

「は?」

「何故、そんな思い違いをしているのか、調べて下さい。」

「そんなのは、調べるが、事の次第を正しく話せ。」

「正しく話しています。」

「侍女を辞めるつもりか?侍女は天職だとあんなに楽しそうに話していただろう。」

「私が何をしたいかは、王妃様なら分かって下さるはずです。侍女は辞めることになっても、仕方がないと思っています。」


 リナの表情で、それが苦渋の決断なのだと、ジルベールも感じている。ジルベールは‘ふぅ’と長く息を吐いた。


「ならば、俺の屋敷に来れば良い。」


 リナが、ぱっと顔を上げると、


「フェルナン王子がどうした?」


 そこにノックもせずに慌てたクロヴィスが勢いよく入ってきた。

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