風邪と軟膏

「これ、塗ってなかったんですか?変な物なんて入れていませんよ。」


 リナはジルベールに投げて渡した軟膏を拾った。


「背中に一人でどう塗るんだ。」

「ご兄弟や騎士の方に塗ってもらうとか。」

「そんな絵面、想像もしたくねぇ。」

「えぇ?そうですか?兄は弟に塗ってもらっていましたよ。」

「仲が良い兄弟だな。」


 ジルベールは優しく笑った。


「弟は可愛いんです。なんだか、小動物みたいで。兄と私からは想像できないと思いますけど。顔は私たちと似ているんですが、一人だけ雰囲気が母似なんです。」


 リナも優しい顔をした。


「あっ。団長もう汗かいていますよね。シャツ、脱いで下さい。ついでに私が背中に軟膏塗りますから。」

「いや、いい。大丈夫だ。」

「そんなこと言って。はいそうですか。って言ったら軟膏絶対塗らないでしょ?さぁ脱いで。」


 ジルベールは抵抗するのも面倒になって、素直にシャツを脱ぎ、背中をリナに向けた。リナは用意してあった桶にぬるま湯を作り、タオルで汗を拭く。軟膏を手に取ると、手のひらで少し温めてから背中に塗った。


「なんか、良い匂いがするな。」


 リナは、軟膏をもうひとすくいすると、瓶をジルベールに渡した。


「ラベンダーとティーツリーの香りです。ハーブは他にも少々使っていますが、この二つの香りが強いです。どれも傷に良いんですよ。あとは蜜蝋にひまわり油ですから、口に入れても大丈夫なので、唇にも塗れますよ。訓練場は乾燥していて唇が切れたりしますからね。花屋は水仕事も多くて、棘のある植物もあるので、年中手が荒れるんです。この軟膏は我が家で代々作ってる物なんです。その瓶の軟膏は今月中くらいには使い切って下さい。」


 リナが、‘終わりました’と言うと、ジルベールは体勢を戻した。すると、突然ジルベールの目の前にリナの顔が現れた。


「やっぱり。唇荒れてますね。熱のある時って、唇が乾燥しますよね。」


 そう言いながら、ジルベールの持っていた瓶から軟膏をすくって唇に塗った。真剣に塗っているようでリナの口は半開きになっている。

 唇に塗り終わると、リナはニッコリと笑う。ジルベールは、リナの腕を取って、重ねるだけの優しいキスをした。

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