シャルル・アギョン公爵

「旦那様、ロベール・ヴァロア公爵よりお手紙が届いております。」


 シャルルは一度、執事の顔を見る。察した執事は、


「ヴァロア様のお名前で届いております。」


 ロベール・ヴァロアとは、私の八歳しか離れていない叔父だ。


「ありがとう。」


 シャルルは、手紙を受け取り、自身でも確認をする。確かにヴァロアと書いてある。叔父と私の父である七十二代国王とは少し因縁がある。

 我が国では魔力の強い者が王位を継承するが、父が立太子してしばらく後に叔父は誕生した。王宮の者は誰一人として口にしないが、叔父は王だった父より強い魔力を持っているのだと思う。

 叔父は生まれてすぐに神殿へ入職し、後宮で育てられることはなかった。叔父はずっと針の筵にいる様な思いで過ごしてきたはずだ。私に手紙を差し出す時も家名のヴァロアは名乗らず、尊者ロベールとして寄越していたし、必要以上に私に関わりを持つと言う事もなかった。


「それが、急に…なんの用だ?」




「叔父上が家族を持ちたいそうだ。」


 手紙を読み終わったシャルルは笑顔で執事に話しかける。


「ご結婚ですか?」

「子供が出来る。」

「それは、重ね重ね、お目出度いことで。」

「あっ、いいや。養子を取りたいのだそうだ。しかも、それがレオナールの想い人なんだとかで…」

「どこのご令嬢なのでしょうか?」

「例の渡り人だよ。天馬に乗って魔獣討伐したという。」

「あぁ。なんでも、授爵をお断りになったとか。」

「少し変った子のようだが、それでも嬉しいじゃないか。」


 どこか叔父上は自分は幸せになってはいけないと思っている様な所があった。しかし、誰かを、それが例え恋慕の相手でなくとも、側に置きたいと思えたと言う事は良いことだ。


「渡り人を召喚すると聞いて、最初はまたレオナールやアナスタシアに余計な負担を掛けることになると、心配していたが。思わぬ所に風穴を開けるものだね。なぁ、ウラリー。」


 ウラリーはシャルルの隣でニッコリと笑う。


「みんなが幸せになれることが一番です。旦那様。」


 そして、悲しそうに笑った。

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