シャルル王

「私は、王の座を退位し、お前に譲位する。」


「まだ、お若いのに、これから父上はどうなさるのですか?」


「死んだわけでもないのに譲位するのだから、私は王位を放棄した事になる。何でもないただの王の父になって、祖母から譲り受けていた小さな領地で余生を過ごすさ。」


「父上、王妃母上にその事は?」


「お前も気がついているだろうが、俺にはむかしに愛した女がいた。平民だ。彼女は息子を産んだ。それが当時の王の耳に入り、彼女は子供を連れ、王都を去った。それから数年後、俺は彼女との子供を引き取った。」


「私が生まれる前の、ジルベールの母上の事ですよね?亡くなったと聞いたはずですが…。」


「生きているよ。王都の西の小さな町に住んでいる。」


「亡くなったと言う話は、王妃母上を欺くために?」


「あぁ。王妃は、彼女に執着していたから。王妃から守るためだ。」


「生きていることは、ジルベールには?」


「話してある。先王は五十九で崩御した。私も今年で五十六になって、自分の死を考える事がある。末娘のエリザベートも嫁いで幸せそうにしている。もう心配事はない。これからは愛する女と死ぬまで穏やかに暮らしたい。」


「では、父上は離宮にも住まずに、王都からも離れて、ウラリー様のところへ?」


「あぁ。譲位すれば私には何の力もなくなる。お前を守ってやれないが、誰の教育のおかげかお前たち兄弟は仲が良い。私が力になれなくても、兄弟がお前を支えてくれるだろう。その点で心配はしていない。しかしな、国王だからと言って好きでもない女と婚姻を結ぶ必要はない。魔力など、弱くても国は守れる。だから、レオナール。きちんと、愛する女を作れよ。王だからと言って、それを諦める必要はないんだ。」


 シャルルはグラスに入ったウィスキーをぐいっと飲んだ。


「と言っても、譲位までには一年はかかる。それまでにお前には沢山のことを見ておいて欲しい。お前なら、きっと良い王になれるはずだ。」


 シャルルはもう一度、グラスを持つと、今度は一気に飲み干した。


「これから王妃にこの事を話してくる。」


 そう言って、部屋を出て行った。

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