レオナール・エイクロン 十五歳

「殿下、おはようございます。」


 レオナールが王宮の馬車から降りると、どこからともなく生徒たちがやって来て、挨拶をする。


「おはよう。アルマン。」


 レオナールから名前を呼ばれた少年は、満面の笑みを作る。


「オレールもおはよう。」


 レオナールは乱れることのない笑顔で、人の群れの間を歩いて行く、左右の生徒たちの名前を呼びながら挨拶をしていく。そこに王宮の馬車と比べても遜色のない馬車が入ってくる。紋章はカンバーランド家のものだ。レオナールに挨拶を済ませた生徒たちは一斉にその馬車に群がる。乗っているのはレオナールの従姉妹アナスタシアだ。


「アナスタシア様は学院を卒業したらエシタリシテソージャへ嫁がれるらしい。あそこの国は血筋に厳しい国だから、ウルバーノ王子の結婚相手を国内で見つけるのが難しいらしくて、アナスタシア様に白羽の矢が立ったらしい。」


 レオナールは俯いて笑いを堪える。

 アニアがエシタリシテソージャに?どこからそんな噂が立つんだ?まぁ、確かに王子のウルバーノに年齢が釣り合うご令嬢が国内にいないと言うのは本当らしいが、それはあくまでも慣例として年下の妃を娶るとすればの話だ。

 同い年と二歳年上の伯爵令嬢がいると父上も話していたし、慣例を破ってそのどちらかでほぼ決まっていると聞いた。それに伯父上が一人娘のアニアを隣国に嫁がせるはずはない。

 レオナールが一人教室に向う廊下を歩いていると、少年が一人庭を見ていた。同じ方に視線をやると、今日も元気にリナが剣を振っていた。


「しかし……何だろう?あの子。」


 …確かに。木に向って一心不乱に剣を振る少女なんて、彼の国では見ることは出来ないだろうな。


「あぁ。リナまたやってるのか。あれの兄貴はシルヴァン・オリヴィエと言って、平民出身だが優秀な人でね、俺の三学年上で君の所のウルバーノ王子に次ぐ次席で卒業したんだよ。」

「じゃあ、あの子騎士になるわけでもないのに、毎日剣を振ってるの?」

「あぁ。そうだよ。兄貴と勝負して倒したいって。学院で剣術を習ったら、家でも手合わせをやってやるって言われたらしくて、ああやって、練習してる。あの家は王宮ウチの専属庭師でね。幼い頃からよく出入りしていたから顔見知りではあるんだ。まぁ、学院にいても貴族じゃないからってあちらから話しかけてくることもないけどね。実直って言葉が一番リナには合うかな。」


 リナ…ほどほどにしておかないと、お前、怖がられてるぞ。…しかし、リュカ・カラヴィも今年の新入生だったか。従兄弟ウルバーノ王子やリベルトとは随分雰囲気が違う様だけど、あの国と我が国ではお国柄が全く異なるから、彼も苦労するだろう。だが、まぁなかなか。良さそうな奴だ。

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