リュカ・カラヴィ

 僕はリュカ。隣国エシタリシテソージャの王太子の従兄弟で一応公爵家の次男。

 我がエシタリシテソージャは近隣国の中では歴史が浅く、そのためかとても伝統を重んじる。だから、僕も伝統を受け継ぐ担い手として沢山の事を学ばなければいけない。その一つがこの外遊だ。

 有りがたいことに、四年制のこの学院には現在この国の王太子と王女が通われている。僕は将来的な外交の為にも彼らとはお見知り置きにならなくてはいけないし、同学年には別の王女とこの王太子の従兄弟が二人も通っている。この三人とも友好を結ばなくてはいけない。


「しかし……何だろう?あの子。」


 …ちょっとコワイ。この学院に入学して二ヶ月、やっとこの国の雰囲気に慣れたけど、未だにあの子には慣れない。二ヶ月間ずっと毎日雨の日以外は同じ木に素振りをしている女の子。

 我が国では女性が剣を握ることはない。王女や、王妃の護衛も全て男性騎士だ。でもこの国は女性騎士もいるんだっけ。なら、彼女は騎士の家門なのかな。それであんなに真剣に素振りやってるのか。何だかちょっと怖いなんて思って悪かったな。


「あぁ。リナまたやってるのか。」

 

 知らない生徒が僕に話しかけるでもなく、声を発する。その身長は僕より頭一つ大きい。僕は自然と彼の方を見た。この大陸では珍しい真っ黒に近い髪に深い茶色の目。(この後僕は何故あの時気付かなかったのかと後悔するのだけど)とても印象が深かった。


「あれの兄貴はシルヴァン・オリヴィエと言って、平民出身だが優秀な人でね、俺の三学年上で君の所のウルバーノ王子に次ぐ次席で卒業したんだよ。」


 ふーん。平民もこの学院に通えるのか・・・ん?平民?


「じゃあ、あの子騎士になるわけでもないのに、毎日剣を振ってるの?」

「あぁ。そうだよ。兄貴と勝負して倒したいって。学院で剣術を習ったら、家でも手合わせをやってやるって言われたらしくて、ああやって、練習してる。あの家は王宮ウチの専属庭師でね。幼い頃からよく出入りしていたから顔見知りではあるんだ。まぁ、同じ学院にいても貴族じゃないからってあちらから話しかけてくることもないけどね。素直で真っ直ぐって言う紹介がリナには合うかな。」


 彼は、ハハハと乾いた笑いを残してその場を去って行った。その後彼がこの国の王太子だと知り、自分の言葉遣いに蒼白することになる。

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