chapter:12

 駆けだしたウルフたち。しかしその目にヒロは映っていないようだ。皆一様にサラを狙っている。

 が、その動きに協調性は無いように思う。そばで見ていたからヒロだからこそわかる変化。


 確かにヒロとサラがやっているように、手負いの相手から倒して数を減らすのは戦闘のセオリー。しかしそれは、きちんと連携を取って油断せずに行なうべき作戦。先ほどサラがしてしまった油断を、今度は敵がしていた。


 ヒロとしてはこの好機を逃す手はない。駆け抜けようとしていたウルフ1体に渾身の斬撃を叩き込む。骨を断ち切る固い感覚。それは致命傷を確信させるものだった。




 それでもパックリーダーを含めた2体が襲ってくる姿を、サラは視界にとらえる。

 ポーションを飲んで傷は多少痛みも引いた。敵の数も減り、彼らの動きもよく見える。それに、


 「連携はどうしたのですか?」


 そう言いながら避けられるほど彼らの動きは単調で、余裕をもって対処できる者だった。

 ウルフたちは特定の部位――サラの右腕を狙っていた。

 もちろん、隙は逃さない。右腕めがけて飛びついてきたウルフの死角から、横腹をめがけた突き刺し。

 至近距離で狙いを定められた一撃が敵の急所、心臓を貫く。

 クゥンと泣いて息絶えたウルフ。気づけばウルフの群れはボスであるパックリーダーを残すのみとなっていた。




 剣を振るって絶命したウルフを払いのけるサラ。ドサッと仲間が投げ捨てられたことでパックリーダーは一度距離を取る。周囲を見れば、いつの間にか手下が全滅している。

 負傷していたはずの獲物の傷も、気のせいか小さくなっている。一度立て直す必要があった。しかし、前と後ろを取られていて、逃げることも容易ではない。

 ならばと、近くに来ているはずの仲間に向けて遠吠えをしてみても、先ほどは帰ってきた声が、今度は帰って来ない。


 不測の事態が起きている。パックリーダーは冷静さを失いつつあった。




 そうしてパックリーダーが遠吠えをしている姿をヒロは後ろから見ていた。劣勢と見て仲間を呼んだようだが、返答になる遠吠えは聞こえない。

 見捨てられたのだろうか。とりあえず目が合ったサラと事実を確認する。どうやら増援は来ない様子。念のために聞き耳を立ててみても、怪しい音は聞こえない。


 「私から行きます!」


 サラがパックリーダーに正面から切りかかる。なるべく広い範囲を攻撃できるよう、面の攻撃。

 攻撃力が低い分、素早さと命中力を求めた攻撃。

 数的有利を取った以上、軽い身のこなしのパックリーダーに大きな一撃を狙う必要はない。慎重に、少しずつ相手の体力を削る。サラの斬撃は小さいながらも確実に傷を負わせる。


 ヒロは逆に、隙を見て大きな攻撃を当てようと試みる。サラの素早い攻撃のおかげで、パックリーダーにも隙が所々に生まれてきている。

 もう少し、もう少し――。


 消耗して行く体力。時々反撃をしても、軽い身のこなしで女の方は避けてしまう。このままではいずれ、やられてしまう。

 そこでパックリーダーは素早く動く女ではなく、動きの遅い男を先に狩ることを優先する。

 女の攻撃を避け、素早く転身。鋭い爪で切り裂こうと駆ける。恐らく来るだろう敵の反撃。


 「――ここだ!」


 低い姿勢で駆けてきたパックリーダーにヒロは剣を横なぎする。

 サラと同じく、命中力重視の面による攻撃。油断せずそれを見ていたパックリーダーは斬撃の上を跳んで回避し、


 「わっ!!」


 ようとして、

 剣に振り回された形のヒロがのけぞる。そのせいで斬撃の高さが高くなり、跳躍して空中に浮いたパックリーダーの、その横腹を捉える。刃ではなく剣の腹による不完全な攻撃を受けて、パックリーダーが吹き飛ぶ。

 ギャンと鳴いた彼は細かい砂利を飛ばしながらもどうにか受け身を取りながら数度転がり、止まった。

 どうにか立ち上がるパックリーダー。森で見つけた奇妙なかけらを飲み込み、体力が向上していなければ間違いなく死んでいた。そのことを本能的に理解した彼は震える。

 しかし、同時に好機も見た。吹き飛ばされたことで彼らと距離を取ることが出来た。これなら逃げられる。

 足を引きずりながら森に逃げ込もうとしたパックリーダーは、


 「逃がすと思いますか?」


 殺意を持って目の前に立つ女に、もう一度震えた。ソレは獲物を前に、確かに、笑っていたのだった。




 転んだ姿勢のまま、遠くでサラがとどめを刺したことを確認したヒロ。長居すると他の魔物と遭遇するリスクがある。

 すぐに戦利品を獲得し、ギルド支部に戻ることにした。


 「サラは休んでて。それとこれ、ポーション」


 ケガをした彼女にポーションを渡し、戦果を獲得していく。これが討伐の証にもなるため、大切な役目だった。と、油断せず索敵をしていたヒロの耳に、ガサガサと音が聞こえる。

 見れば、大きな猿のような魔物が逃げていく姿だった。あの魔物が脅威になるかもしれない。追いたい気持ちもある。しかし、サラも傷を負い、ポーションももうない。

 苦悩の末、見逃すことにするヒロだった。

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