chapter:10

 翌朝。

 予定通り朝食後すぐに村を出たヒロとサラは、森と平原の境を通ってウルフのねぐらに向かっていた。

 比較的見晴らしのいい場所を選んだ行軍。索敵も容易で、特段の危険なく進むことが出来ていた。しかし、ここからは少しの間森を抜けて、ウルフの群れが待つねぐらを目指す必要がある。

 木々が視界を遮り、鋭い嗅覚を持つウルフが有利な地形。今まで以上に慎重な行動が求められていた。

 

 「このあたりから森を抜けて山のふもとに行かなければなりません。慎重に行きましょう」


 サラの言葉に小さくうなずくヒロ。

 ここからはレンジャー技能を持つヒロをメインにして進むことになる。なるべく音を立てないよう気を配りながら、静かに2人は森へと進入した。




 そうして30分ほど経った頃。

 ようやく森とタミール山脈の境が見えてくる。ごつごつと露出した岩肌。そのどこかにパックリーダーを長とするウルフの群れがある。今は地図に示された半径1㎞ほどの縁の端。

 森にはウルフ以外にも魔物がいる。ウルフなどとは比べ物にならない危険度の高い魔物も多い。彼らに見つからないよう背の低い木に隠れながら、2人はしばらくねぐらの捜索を続けることになった。

 そしてさらに30分ほど要したところで――


 「見つけた。ウルフの群れ」


 ヒロが岩場に寝そべるウルフたちを見つけた。聞いていたよりも数が少ない。隠れているのか、狩りに行っているのか。それとも、群れが分裂したのか。可能性は複数ある。重要なのは群れをまとめる存在、パックリーダーと呼ばれる個体を仕留めること。


 「あの最上段の岩場で眠っている、体の大きなウルフがパックリーダーです。あれを倒せば、今形成されている群れは霧散するでしょう。ヒロ、周囲に敵はいますか?」


 「少なくとも僕がわかる範囲で、敵はいないと思う」


 どうすべきか、サラは考える。見えている範囲で敵は5体。圧倒的な数的不利。ウルフだけであれば、ヒロとサラの力でも押し返せるだろう数。しかしパックリーダーがいる場合、ウルフたちは統率された動きを取るため脅威度は高くなる。状況的にはギリギリといったところだろうか。


 「もうちょっと待って、敵が減るのを待つ?」


 「いえ、恐らく必要な数はもう出払っていると考えて良いです。今が最小数でしょう」


 時間をかけて群れのウルフを個々撃退する手段もあったが、それこそ時間がかかるし、森にとどまり続けるリスクも大きい。見晴らしのいい岩場。奇襲も難しかった。

 遠距離攻撃があれば先制はできただろうが、あいにく2人とも互いをかばい合える距離で戦う近接型。


 「行こう。僕たちで依頼を達成できると言ったエナさんと、孤児院で磨いてきた技術を信じよう」


 「信じる、ですか…」


 状況が悪いことには変わりないが、今が敵の最小人数で、かつ、すぐに敵の増援が来られる状況ではない。好機ではあった。


 「――わかりました。ウルフがいる状況でパックリーダーを相手取るのは難しいでしょう。まずは周囲の手下を狩ります。ですが前回の竜とは違って、逃げることもできる相手です。最悪、数を減らして撤退します。いいですか、ヒロ?」


 「…わかった。でも、一人で逃げることは無いから、サラもそれをわかって」


 「わかりました。敵の攻撃は可能な限り私が引きつけます。ヒロは攻撃に重きを置いていてください」


 撤退も視野に入れた妥協案。数を減らすことが依頼の達成につながることを確認する。

 なけなしのお金で買ったポーション、装備を確認し、準備は整った。小さく息を吐いて、2人は群れに向かって駆けだすのだった。

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