chapter:8
武器屋を出たヒロとサラ。万全とは言えないが、できる限りの準備をした。エナさんの話では、大きくなったウルフの群れはサンバス北方にねぐらを移動させたという。
「森をまっすぐ進むのは、今からだと危険です。エナさんの勧め通り、一度ムメイ村を経由していきましょう」
ムメイ村はサンバスの中央を走る街道を北側、エユトルゴ騎兵国方面に4時間ほど行った森と平地の境にある人口100人程の村。ねぐらへはそこから西に3時間ほど。
森をまっすぐ抜ければサンバスからねぐらへは3時間ほどで行くことが出来るが、足場も視界も悪く、その上運が悪いと高レベルの魔物に出くわしてしまう。
「賛成。ムメイ村なら今からサンバスを出ても夜までに間に合うし、行こう」
森と違って、人通りの追い合街道沿いは整備されていて、歩きやすい。何よりも魔物との遭遇率が低い。依頼の前に消耗するのはできる限り避けたかった。
とはいえ時間をかけると、群れはさらに大きくなる。そうなると人的被害が大きくなるだろう。焦らずに急ぐ。互いの意見が一致したのを確認して、2人は中継地点となるムメイ村を目指すことにした。
「ところでヒロ。この服はどうでしょう? 受付嬢の方から恵んで頂いたものですが…」
と、サラが自身の服装についてヒロに尋ねてくる。持ち物を失い、蘇生されたとはいえ服はボロボロ。土や血で汚れた服を見た受付嬢からサラは古着をもらっていた。
ヒロも、過去の依頼の依頼主から「息子の古着だけど」と何着か服を譲ってもらい、着替えている。
手持ちが心もとない2人としてはとても助かる好意。ここでも冒険者としてのつながりが活きたと感じざるを得ないが…。
「給仕服、らしいのですが…」
着慣れないスカートに落ち着かない様子のサラ。孤児院では簡素なシャツに季節に合わせた長さのパンツスタイルが多かった。
旅立つ際に2人が持ってきていた服も、その延長線。刺繍や柄が多少凝ってはいたものの、機動力と利便性を求めたシャツとパンツスタイル。
一方、サラが受付嬢たちから譲り受けたのは多くがスカートやワンピース。エルフであり、眉目秀麗なサラ。死んでしまったことを悔やむ彼女に、せめて気分を変えて着飾ってもらおうと受付嬢たちが持たせたものも多かった。
今サラが着ているのは、そうして渡された服の一つ。受付嬢の一人がかつて働いていた屋敷で使っていた給仕服だという。動きやすい反面、少し装飾が多いようにサラは感じていた。
「孤児院では見なかったし、新鮮、っていうのが素直な感想かな。もちろん、似合ってる」
サラの黒い髪に黒い瞳。それが白地の多い給仕服と対照的で、良く映える。
「ならいいのですが…」
一般市民からすれば見慣れない服。自分に向けられる周囲の視線が少し気になるサラだった。
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