chapter:7

 「これにしようかな…? サラはどう?」


 「そうですね…。価格と品質を見て、うーん…」


 時刻は昼過ぎ。蘇生から数日が経ち、勢いよくギルドを飛び出したものの、2人はまだサンバスにいた。

 理由は主に装備の再編成。時間をかけてサンバスにいくつかある武器屋を巡りながら、壊れてしまった装備をもう一度、整えているところだった。


 今見ているのは表の街道から少し外れた、低ランクで価格の安い武器を扱う店。サラが持つセージ技能をフルに活用しながら、品物の質と価格を見比べる。


 「そう、ですね。大丈夫だと思います。店主、これとこれを下さい。それと鞘も」


 「はいよ、ちょっと待ってな」


 ここで買ったのは武器だけ。アイテムと防具は他の店ですでに買っていた。どうにか帰還出来たとはいえ、アイテムや衣服が入ったバッグは死んだ所、つまり、泉に置き去りとなった。

 よって、2人は念のため預けていた全財産の半額、1000Gほどしかお金がない。命を預ける装備品の質に妥協するわけにもいかず、かなり時間をかけて選ぶことになっていた。


 店主がヒロの選んだロングソード、サラの選んだエペに合う鞘を選んでいる。これだけで手持ちの半分以上が無くなることになる。


 「もし、サラの言う通り、お金を預けてなかったらまた借金だった…」


 「ただでさえ2人で20000Gも借りているのに、これ以上貸してくれるとは思えません」


 ギルドも信用のない冒険者にはお金を貸してくれない。ほとんど実績のない2人が蘇生費用を肩代わりしてもらえていること自体、珍しいことだった。

 

 「そういえば、どうして私たちを助けてくれたのでしょう?」


 「セーラさん? たまたま見つけたから、ってアンジェリーナさんは聞いたらしいけど…」


 2人の遺体を持ち帰ったのはセーラという斥候の冒険者だという。冒険者が死ぬなんてよくある話。接点もない自分たちを、リスクを追ってまで助けた理由は何だったのか。サラは少し気になっていた。

 近くに竜がおらず、たまたま手が空いていたから、と言われればそうなのかもしれないが…。


 「今度会ったら、お礼しなくちゃね。恩とお詫びは言葉にする。モトナさんがよく言ってた」


 「そうですね。助けていただいたことには変わりありませんし」


 そうして話していると、武器屋の店主が鞘に入った武器を手に出てくる。


 「お待ちどう。代金は500Gだ」


 告げられた金額は、サラが思っていたよりもかなり安い。武器だけでもその金額は安い方だろう。となると、鑑定が間違っていた可能性が高い。

 よもや粗悪品かと疑うサラの鋭い視線に、店主は笑って答える。


 「サービスだよ、新人冒険者。その代わり、今後しばらく、うちの店をひいきにしてくれると嬉しい」


 あくまで打算のあるサービスだと、あえて言う。そうでもしないと、このエルフの少女は納得しないと店主は長年の勘で知っていた。


 「そうですか。では、お言葉に甘えます。ありがとうございます」


 予想外だったのは、お金を手渡す少女がお礼を素直に述べたところ。気が強く、疑り深い子供かと思ったが、どうやら根は素直で、訳あって気を張っているらしい。その理由は十中八九、隣にいる少年のために違いなかった。


 「ありがとうございます、おじさん。あまり手持ちがなかったので、本当に助かります」


 そう言ってロングソードを帯剣する少年。姉弟だろうか。姉の方は変わった格好をしているが、2つ武器を買ったということは2人とも冒険者だろう。それも、サンバスでは珍しい駆け出し冒険者のようだ。


 「それでは、また来ます。必ず」


 「おう、気を付けてな」


 2人がベルトにうまく帯剣したのを見届けて、店主は店を出ていく姉弟を見送る。あの装備のままでは、低レベルの魔物しか狩ることが出来ないだろう。彼らのためにもなるべく早く、もっといい武器を求めて再来店することを店主は願っていた。


 「それにしても、あのエルフの子の格好は一体…? まあ、似合っていたが」


 見慣れない服を着ていたエルフの少女に店主は首を傾げるのだった。

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