chapter:6
「お待たせしました、ヒロ。では、エナさんの所に依頼の確認に行きましょう」
ギルド支部の廊下。運び込まれた個室の前で待っていたヒロにサラが声をかける。あの後、目を覚ました彼女と生き残れたことを喜び合った後、すぐにサラはお色直しに行っていた。まだほんの少しだけ紅い目元が、弟の前で泣くまいとした彼女の意地を表していた。
なお、サラが言ったエナというのは2人のサンバスギルド支部における担当受付嬢のこと。人族の女性で、これまでも何人かの冒険者を担当してきた中堅受付嬢だとヒロは聞いている。
実際、2人がこなした小さな依頼の時も親身になって相談に乗ってくれ、都度適切な助言をしてくれていた。サラとはまた違った姉のようなだと、ヒロは信頼を寄せている。
サラの方も装備やアイテム、情報といった必要なものを提供するエナを、仕事面に関しては認めていた。
ところで、ヒロが密かに抱いていたサラに個室を使ってもらうという目標は、死亡するという最悪の形で叶えられてしまった。そこで、1人1つ個室を使うことが目標だと修正している。今回は2人で1つの個室だったため、セーフだと勝手に言い訳していた。
話を戻し、目覚めた個室と同じ階にある各種依頼の受付。カウンターを挟んでヒロとサラは、エナと依頼内容を再確認していた。
「こちらが今、受けていたただいている依頼ですね」
エナの話によれば、最近ウルフの上位個体「パックリーダー」が現れ、森のウルフをまとめているらしい。最近の魔物の増加に加えて、手に負えなくなる前に対処してほしいとサンバスの市民たちから依頼があったのだという。
ギルド支部としてもこの依頼を推奨しており、場合によっては追加の報酬も用意していると説明がある。
なお、ウルフたちのねぐらは斥候達が確認しており、地図を示しながら教えてくれた。
説明が一段落したところで、
「ところで、ドレイク種と遭遇したって本当ですか?」
エナが2人に聞かなければならなかった。あらましに関してはギルド長であるアンジェリーナから聞いているが、詳細を知って他の冒険者への情報提供もしなければならない。
たとえ自分のせいで危険な目に遭ったのだと、目の前の2人に
「はい、情けない姿をさらしてしまいました。ヒロにも、エナさんにも。でも、次は負けません」
「詳細は僕が話します、エナさん」
丁寧に説明するヒロ。その横で、静かに心を燃やすサラ。
これまでエナが担当した冒険者の中には、依頼の失敗を受付嬢のせいにする者もいた。同僚の話ではベテラン冒険者にもいるという。
しかし、今目の前にいる、まだまだ子供で、駆け出しの冒険者2人。彼らはエナを非難することなどせず、ただ未来を見据えている。失敗を自分のものとして、死すらも糧に、また“冒険”しようとしている。
「なるほど、本当に、しかもこんな街の近くで…」
白い竜と、小さな泉。ヒロの説明は、エナの求める情報をきちんと教えてくれた。これでまた、他の冒険者にきちんとした情報を渡すことが出来る。
「一応、ギルマスが調べてくれているらしいので、もう一度会うなんてことはないと思いますが、くれぐれも注意してくださいね」
「わかりました。では、行きましょう、ヒロ」
「「行ってきます、エナさん」」
受付嬢として、せめて弱き人々のために戦う彼らを支えたい。疲れた彼らを「お帰りなさい」と労わってあげたい。
「はい、お気をつけて、いってらっしゃい!」
旅立つ二つの小さな背中を、エナは優しく押してあげるのだった。
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