chapter:3
あれから数日。ギルドから斡旋された配達や探し物といった小さな依頼をいくつかこなしたヒロとサラ。今日は初めて自分たちで選んだ依頼に挑戦している。2人は今、サンバスから少し西に行った森でウルフと呼ばれる魔物の痕跡を追っていた。
今回彼らが受けた依頼は、『パックリーダー率いるウルフの群れの討伐』。報酬と難易度。何より、ウルフは孤児院での訓練の際に何度か遭遇し、討伐したことのある魔物。少しでも勝手の分かる相手を選ぼうとサラが選んだものだった。
なお、探索はレンジャー技能を学んだヒロが行なうことになっている。サラはセージ技能を用いて知識面でサポート。戦闘ではヒロがファイター技能、サラがフェンサー技能を使って互いに前衛で連携しながら戦う戦術を練習してきていた。魔法は“師”になる人物を呼ぶためにお金が必要だったため、2人はあえて習得していない。
しかし、いずれは、自分たちで習得するか、魔法を扱える仲間を引き入れようという話になっている。
「うーん…この足跡もフンも、ユキウサギのものかな…」
地面や草木とにらめっこしながら探索を行なうヒロ。一方サラは周囲を警戒しながら
「最近、魔物の動きが活発です。注意してくださいね。恐らくはどこかにある“奈落の魔域”のせいだと思うんですが…」
依頼を受ける時、2人を担当する受付のギルド職員エナが言っていたことを思い出していた。
現れる魔物が低級ばかりで、高レベルの冒険者が多いこの地方では見向きもされないらしく、駆け出しの2人にも仕事が多く回ってきていた。今も、高レベル冒険者たちは公都ウルガ付近に現れた脅威度の高い魔域に出向いているとのことだった。
駆け出しである自分たちにとっては幸いな状況かもしれない。そうサラは考えている。小さな依頼をこなしたおかげで、町での顔見知りや情報網をいくつか作ることが出来た。同時期に冒険者になった人がいないため、冒険者との関わり合いはまだまだ少ないのが少し気がかり…。
「サラ、伏せて」
考えていたサラに、周囲の音を聞いていたヒロが小さく声をかけた。サラはすぐに身をかがめ、ヒロに目配せをする。彼が指さした先。そこには黒い毛並みを持ち、口から鋭い牙がのぞく、4足歩行の動物がいた。それは
「さすがヒロ。間違いありません、ウルフです」
2人の追うパックリーダーへの手がかりになるかもしれない動物、ウルフだった。
「とりあえず、様子を見ます。森の中は武器がうまく振るえません。開けた場所で仕掛けましょう。戦闘時の連携も確認しておきたいですし」
素早くウルフを狩るための作戦を立てるサラ。そんな姉にヒロは待ったをかける。
「それもいいけど、サラ。まずは、あのウルフたちが群れの一員か確かめるべきじゃない? 群れなら周囲に他のウルフがいるかも。戦闘中に敵の増援はまずいから」
見えているウルフは2匹。しかし群れならそれ以上の数がいるはず。そうサラに提案する。こと戦闘においてはサラの判断に賛成だった。
「…そう、ですね。すみません、少し急ぎ過ぎました。ではヒロは索敵をお願いします。私があの2匹の行方をしっかり見ておきます」
「了解!」
サラが目視でウルフたちを追う傍らで、ヒロはウルフたちがいた場所の足跡を確認する。数は2匹分。他にウルフたちの姿は見えず、不自然な音もしない。
「…?」
少し違和感のあった木の上を見ても、何もいない。何かに見られているような気もするが、ここは森の中。鳥やウサギなど他にも野生動物たちがいる。気のせいだと判断し、改めてサラの提案に乗る。
「周囲に他のウルフはいなさそう。多分、群れからはぐれたか、追い出されたんだと思う」
「わかりました。では、ちょうど小さな泉が見えてきたのでそこで仕掛けましょう。恐らく水を飲むはずなので、油断したその隙に」
作戦を立てるサラ。命を懸けたやり取り。卑怯、姑息など言っていられない。何よりヒロの生存率を上げるため。自分たちがどうすれば有利に立ち回れるのかを考える。
もちろん極力戦闘を回避する方法もあるが、そうなると目の前のウルフが人を襲う可能性を残してしまう。パックリーダーのいる群れに合流することでその危険性はさらに引きあがる。見逃すわけにはいかないし、ヒロはそれを良しとしないだろう。
姉の立てた作戦にうなずき、ヒロも装備や所持品を整える。ウルフたちは泉に到達し、水を飲む前に鼻を鳴らして周囲を警戒している様子。だからこそ、安全だと判断し水を飲んでいる瞬間は隙になるだろう。
それにしても容赦のない作戦だとヒロは思った。
住んでいた村を両親ともども魔物によって奪われたサラにとって、魔物は怨敵だろう。冒険者を志したのも、魔物を駆逐するためだと幼い頃に語っていた。
復讐。そんな危うい理由で身を危険にさらそうとする敬愛する姉を支えたいと、ヒロも冒険者を志したのだった。
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