chapter:2

 エユトルゴ騎兵国と妖精郷アヴァルフとの街道の途中に作られた宿場町サンバス、そのギルド支部。昨夜のうちに冒険者登録を済ませた2人は、最低グレードの大部屋で他の冒険者たちと雑魚寝をして一夜を明かしていた。


 翌朝。まだ夜も明けきらないウルシラ地方は春でも寒い。気温と警戒。2つの要因で目を覚ましたサラ。隣でぐっすりと眠るヒロを少し眺めた後、職員用の控室を借りて、身支度を整えることにした。持ってきた衣服は最低限。それでも見た目で侮られないよう、清潔で動きやすく、ある程度意匠をこらしたものを持ってきている。


 服を着る前に身体を拭き、香草で自作した香水をほんの少しだけふりかける。お風呂はもう少しお金に余裕が出来たなら入ろう。鏡の前で旅立つ前に短く切った黒髪の様子を確認し、戦闘時に邪魔にならないよう、前髪をピンでとめる。

 衣服、装備、アイテム。それらがすべてあること、そしてその状態を確認し、最後に、


「よし」


 小さく気合を入れて、荷物をまとめる。

 その頃には朝日が昇り、ヒロを起こすにはちょうどいい時間になっていた。控室を貸してくれたギルド職員に礼を言って共同寝室へ。まだ寝ている他の冒険者の邪魔にならないよう気を付けながら移動し、


 「おはようございます、ヒロ」


 小さくヒロに声をかける。それでも起きないヒロを何度かゆすってみる。するとようやく、ヒロは目を覚ました。


 「んぁ、おはよう。サラは早いね…」


 換気のために小さく開いた窓から見えるのは朝日。日が昇ってすぐだと分かる。大体6時過ぎだろうか。もう少し寝ていてもいいんじゃないかとヒロは考えていたが、


 「職員の方が調整してくれるとは言え、依頼は早い者勝ちだと聞きます。早く掲示板を見に行きましょう」


「…それもそうだね」


 サラの言葉で目を覚ます。駆け出しのうちは信用を確立すること重要だと孤児院では聞いていた。今はできる依頼を数多くこなし、“格”を付ける必要がある。それが収入、ひいては冒険者として生活基盤を作るうえで大切なこと。サラはそのあたりを十分に理解していたようだ。


 「待ってて、すぐ着替えるから」


 「それなら私は、少し席を外します」


 そう断って寝室を出て行ったサラはすでに準備が整っているように見えた。つまり、ヒロより早く起きて、完璧に準備を済ませたということ。そのあたりもヒロが彼女を尊敬している点と言える。

 だからこそ、彼女が気を使わなくて良いように、早く個室でも納得してもらえるような収入を得られるようにならないと、と思うヒロだった。

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