第6話 変身大作戦!

「新、さあ行くわよ!」


「な、俺今帰ってきたばかりだぞ!」


妹と家に帰り、部屋にたどり着くと、出かける気満々らしいマリアが待ち構えていた。

俺は焦りながらも、マリアに腕を引きずられて外に出される。


「?お兄ちゃん、また出かけるの?」

途中妹の結愛に出くわしたが、結愛はマリアの姿が見えない。

なんだか、不自然に歩く俺に疑問を持ちながらこちらを見てきた。


「あ、ああ、まあな!」

―いやいや、俺だってほんとは部屋でゆっくりしたい!

たまの日曜日だから、用事が立て込んだらゆっくり休めない。が、マリアの力は強い...


マリアに引きずられて、俺はまた街に帰ってきてしまった。

そのまま洋服店に入る。いかにも女の子向けの洋服店だ。

「いや、ちょ、ちょ、俺男だし、女の子向けの店に入るのはちょっと!そもそもマリアは見えないわけだし!」


俺はマリアの腕を引っ張て、何とか帰ろうとした。

が無情にも店員がこちらに近づいてきた。

―や、やめてくれ...来ないでくれえ。


「いらっしゃいませー、可愛い彼女さんですね!今日はどんな服を選びに来られたんですか?」


「え?」


―み、見えてる?


「できたら、最近のファッションのものがいいの、似合いそうなものを持ってきてちょうだい。」

マリアは店員に向かってそう言うと、店員は意気揚々とした。

「お客様なら、たくさん似合うものがあると思います!選びがいがありますね!」


といい、服を持ってきます、と言って後ろに下がっていった。

マリアの方を見るといつの間にか俺の着ていたコートを上から羽織り、元々の服装が見えにくいようにしていた。

―い、いつの間に。


店員が持ってきたのは、フリルの着いたブラウスに、チェック柄のヒラヒラしたスカートの組み合わせ、上から軽い、肌触りの良さそうな薄グレーのコートを持ってきた。


「こちらなんかはいかがでしょう!」

店員は目をキラキラさせながら勧めてきた。

確かにマリアにはとても似合いそうだ。

それから追加で太もも丈まである、黒の靴下と、オシャレな黒のローファーをセットで付けてきた。


「今すぐ着たいの」

マリアは店員に向かってそう言った。


「では試着室にどうぞ!」

店員はマリアを試着室に案内した。

俺は、試着室の近くでマリアが着替え終わるのを待つことにした。


―そう言えば、羽がないな。人間になりきることも出来るんだな。

俺は呑気にそんなことを考えていた。


シャッ

音がしてマリアが試着室から出てくる。


「凄くお似合いです!!!!!」

店員はテンション高々に、マリアの姿を賞賛した。


―お、おお。

確かに店員の見たて通り、マリアにその洋服は大変似合っていた。

俺も見違えるように可愛くなったその姿に思わず感嘆した。


特に華奢な印象のマリアには、上品な白のブラウスがよく似合い、チェックのスカートから見える足はスタイルが良い事がよくわかる。

ローファーの組み合わせも大変よく合っていた。


「コーディネートしてくれて、ありがとう。

どう?新?これで良くなったでしょう?」


マリアは新に得意げに話しかけた。

実際俺も凄く似合っているマリアの服装に驚いていた。


「あ、 ああ、似合ってるよ。」

俺がそう返すと、マリアはエヘへと笑った。


「では、お会計、12,000円になります!」

店員が電卓を持ってきた。


―うお!そうだった!お会計!

ていうか、マリアは払えるのか?

俺は焦ってマリアの方を見た。


「な、なあ、マリア、お金持ってるのか?」

俺は不安になりながらマリアに尋ねた。


「持ってるわ、大丈夫よ!」

マリアはそう返した。俺はホッとした。

―なんだ、大丈夫か。


「これ、使えるわよね?」

そう言ってマリアは店員が手渡したのは―


「お客様、え?」

店員は、困惑した。


―お、おい、これいつの通貨だよ!

そうマリアの手にはいつの通貨だか分からないお金が乗っていた。


「これは、私たちの祖先ゲフン!いや、親戚から貰ったものよ!これでいいんでしょう?」

マリアは、自信満々に通貨を差し出したが、

店員は終始動揺していた。


「お、お客様、これは使えませんね...」

店員は動揺しながらそう話した。


「え!?」

マリアはまた、真っ赤になった。必ず使えると思い込んでいたらしい。


「俺が払います。」

俺はそう言って店員にお金を差し出した。


「ありがとうございます!」

店員は笑顔でそういいマリアの元着ていた服を紙袋に包んで渡してくれた。

そうして俺の財布から12,000円が飛んでいった。


―――


「ごめんなさい。」


その後俺たちはカフェに立ち寄ってお茶をすることにした。

マリアはシュンとしてうなだれて、俺に謝ってきた。


「まあ、いいんだよ、気にするな。」

俺はそう言って返した。正直12,000円の出費が高校生の新に痛くないわけではなかったが。

まあ、そんなことはいいと思えた。


そういえば、店員がオマケですよ!と髪を結ぶようのリボンをつけてくれた。

それも大変よく似合っている。


―俺、女の子に服を買ってあげたなんて初めてだなあ。

新は、今まで女の子と付き合ったことは無い。何度か気になる子はいたし、いい感じになったりもしたが、告白するまでには至らなかった。

これは新にとって初めてで、なんだか、とても感慨深い経験だと言えた。


「お待たせ致しました。」

カフェの従業員が、パンケーキと俺にコーヒーを持ってきた。


―俺はいいカフェなんか知らないからな。

結愛と行ったところと同じになっちまったな。

俺はそう思いながら、コーヒーを1口すすった。

俺たちは、今日結愛と行ったのと同じカフェ来ていた。


「こ、これなあに?」

マリアは凄く興味のありそうな顔でパンケーキを見ていた。


「ああ、パンケーキて言うんだ。美味いぞ。」

俺はマリアにそう言った。そういえば、マリアは何を食うんだろうか?やっぱり血だけなのか?と思いながらマリアの方を見た。


マリアは不思議そうにパンケーキをひとくち食べると、目を輝やかせた。


「美味しい!!!!」

その表情はとても可愛いものだった。

俺はその顔を見てなんだか笑みがこぼれた。


―甘いものが好きみたいだな。

マリアの新たな一面を見ることが出来た。


俺たちはしばらくカフェで過ごし、ウィンドウショッピングをした。

マリアは色んなものに興味があるようで、たびたび目を輝かせていた。


―――

こうして俺たちは家に帰った。

すっかり夕方になっていた。


マリアは疲れたのか、元の服に着替えて寝てしまったようだ。


―なんだか、いい日だったな。そういえば女の子とこうして街を歩いたのは初めてだな。


新は、なんだかじんわり暖かい気持ちになった。そうして、マリアに自分の部屋にあったブランケットをかけてやった。


―なんの夢見てるんだろうな。

俺は何となく微笑えんだ。この奔放なヴァンパイア少女は一体なんの夢を見るのか。


そうして、俺も眠りについた―






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