第4話 ファッションとは難しいものである

―もう、全くうまくいかないじゃない。


少女、ヴァンパイアのマリアは部屋の中で頬をふくらませていた。

ちょうどこの部屋の主人である、本庄 新(ほんじょう あらた)は学校に行っており不在。現在は昼である。


少女は、新の妹、結愛(ゆあ)の部屋から拝借してきたファッション雑誌に目を通しながら、何も上手くいかない事態にヤキモキしていた。

そして昨日のことが彼女の脳裏を掠めた。


―――昨日


「なあ、その格好へんじゃないか?」

唐突に新に尋ねられたのは昨日の夕方だ。

新は、唐突にやってきて居座っているマリアの存在に、渋々ながら徐々に慣れ始めているような様子だ。

そして不思議そうに尋ねた。


「へ、変な格好?そんなわけないじゃない!これは祖先から受け継がれたれっきとした服なのよ!」

マリアは動揺しそうになりながらもそう返した。そう、これは祖先代々から受け継がれた服装だ。マリアとしては特に疑問を持ったことなど無い。


「はあ、そうなのか?変わってるというか、なんというかコスプレ衣装みたいというか...」

そう言って新は、マリアの格好をじっと見ていた。


「コスプレ?衣装...」

マリアにはなんのことか分からなかった。

コスプレという言葉は初耳だ。


「わ、私の格好が変ていうの?」

マリアは、今まで自分の格好を気にしたことがなかった。それが当たり前のものだと思っていたからだ。そもそも、ヴァンパイアの星にはファッションというものがあまり流通しておらず先祖がどこかの星、おそらく地球から持ち帰ったものをベースに作った服を着ることが受け継がれていた。


「まあ、そうだな。変、、、かな。」

新は頭をポリポリとかきながらそう言った。


「へ、変?フ、フン、そんなわけないわ。わ、私だって普通の服装てものくらい分かってるんだからね!これはちょっとお遊びで着ているだけなんだから!」


マリアは思い切り言い切った。

けど本当は知らなかった。物凄く動揺した。ちょっと涙が出た。

体はワナワナと震えていたけど、つい新の前で強がってしまった。

―嘘、これ、て普通じゃなかったの。は、恥ずかしい...。


「別に否定してるわけじゃないよ。まあ気にしないでくれ。悪かったよ。」

新は、そう言って、学校の宿題の途中のためか、視線を下に落とした。


マリアの体はまだワナワナと震え続けていた。


―――

それが、昨日のことだ。


―ふぬぬぬ、人間の服て、複雑なのね。


マリアは、雑誌のモデルが着ているカラフルな服装を見ながらなおも頭を悩ませた。とにかく、たくさん、たくさんページを見た。ファッションの研究のためだ。


正直、どんなに頑張っても上手くいかず、また、ホントの気持ちに正直になれないマリアはちょっぴり涙が出た。

新の言葉が胸にささっていた。


"その格好へんじゃないか?"


―そ、そんなこと...。か、可愛いて思われたいじゃない。

それがマリアの本当の気持ちだった。

悲しくて涙が出るのは女の子だからだ。


それに、新はマリアがどんなに好意(強がって正反対の言葉を言っているが)を示しても、全く好きになってくれる素振りがない。

どうやら、他に気になる相手がいるように見えた。


―絶対人間のファッションマスターして気を引いてみせるんだから!


―――


「へっくしゅ...ん?風邪かな?」

新は急に出たくしゃみに、鼻を擦った。

今日は土曜日だが、俺の学校では午前中まで授業があり、ちょうど今終わったところだ。


「新くん?大丈夫?これティッシュ、よかったら使って!」

隣の席の佐伯さんが声をかけてくれる。


「ありがとう、佐伯さん 。助かるよ!」

俺はそう言い、佐伯さんからのティッシュを受け取った。

―は、これが佐伯さんのティッシュ、ということは佐伯さんも使ってたもの、てことだよな。

て、いや、いやその発想は気持ち悪いぞ、俺!


自分にツッコミを入れつつ、ティッシュを受けとった。


「じゃ、またね!新くん!」

佐伯さんは足早に帰ってしまう。


―佐伯さんなにかやってるんだろうか、いつも走って帰っていくなあ。


そんなことを思いつつ、俺も家に帰った。


―――


「ふ、ふん、今日は早かったじゃない!」


「え?」

新が部屋に帰りつくと、目の前にとんでもないものがいた。


それは、黄色い半袖Vネックに、ピンクのババシャツがはみだし、赤いスカートの下に新が中学生の頃に使っていた緑のジャージをはいた、マリアだった。


―なんだこれは、く、クソダサい...


極めつけは、あたまに巻かれたベルトだ。

何十かにして巻いてある。


「人間てカラフルな服装をオシャレていうんでしょ!学習済みよ!」


なんだこれ、何もかもが間違っている。


「なんで、頭にベルトをまいてるんだ?」


「人間は頭にアクセサリーを付けるものなんでしょう、」

得意げにマリアが言い放った。


新は溜息をつきたくなった。どうしたらこうなるんだよ...。


「いや、それは変だぞ」

この際はっきり言うことにした。本人は変だと思っていないようだが、本当のことを言った方がいい時もある。


「え?」

その瞬間マリアは真っ赤になった。


「か、勘違いしないでよね、ここここ、これは、、、これは、、、ちがうんだから!」

そう言って、着ていた服を残してマリアは煙のように消えてしまった。

どこかに行ってしまったようだ。


「消えた?これもヴァンパイアの特殊能力なのか?」


と、そのとき、結愛が部屋に入ってきた。

「ねえ、お兄ちゃん宿題のことで相談が...て、へ?」


―な、ヤバい、床に落ちているのは結愛のパンツ...!?????


「それ!結愛のじゃない!お兄ちゃんの変態!!!」


結愛に思いっきりドアを締められた。


「ちょ、違う、違う!これは俺じゃない...」


―くそう、なんでこうなるんだよーーーーーーーーー


俺の波乱の日々は始まったばかりだ。

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