第8話 シダとエルフル

「……なるほどな」

事の次第を一通り話すと、クーラルは納得したように頷いた。

「信じてくれるんですか?」

「あぁ、さっき話したアイツの事もあるしな。人間が動物になる技術があるたぁ、驚いた」

確かによく考えたらヤバいもん製造したんだな妹。今更だけど。

「それであんた、いやケイだったか。あんたは人間に戻る方法を探していると」

「はい……妹の事だからしばらくは俺をいじめて楽しむだろうし、なんとか自力で戻りたいんです」

「っつってもなぁ……俺の力だけじゃ限界があるぜ?……いや、あいつらなら……」

クーラルはニヤリと笑う。

「なにか方法が?」

「あぁ、俺のシモベを使うとする」

そう言うとクーラルは……空に向かって3回鳴いた。すると瞬く間にバサバサという翼の音が聞こえたかと思うと、クーラルの前に2つの黒い影が降り立った。

「クーラル様、如何しましたか?」

影の正体、それは黒いカラスだった。片方より一回り大きいカラスはそう言い、礼儀正しくクーラルに頭を垂れる。

「クーラル様ぁ、私達に何か用ー?出来ることならなんでもするよ!」

小さい方のカラスはそう、無邪気に笑った。

「よく来てくれた、シダ、エルフル。実はこの子の件なんだが……」

クーラルがこちらに手を伸ばすと、2匹の興味が俺に移る。

「このお方は?」

「んー?ここらじゃ見ないお顔だなぁー」

「俺はケイです、実は……」





ーーーーーーーーーーーー

「……という訳なんです」

クーラルにした説明をもう一度した。すると小さい方のカラス……エルフルが興味津々といった様子でこちらを覗き込む。

「えー!この子が人間!?ぜんっぜんそうは見えないよぉ?」

「ちょ、あの……きゃふん!」

俺はしっぽを啄まれる。

妹にしろこの子にしろ、なんでこうもしっぽを弄りたがるんだ。なんか変な声出そうになるけどガマンしてる身にもなって欲しいっっ。

「こら、エルフル」

シダが制止すると、エルフルは我に返ったように俺から離れた。

「いきなり動物になったなど……私には信じられない。あまり関わらない方がいい」

そう言い、俺を睨むシダ。


…なんか敵対されてる……いやまぁ、よく考えなくても当然なのかもなんだけどさ。

悲しい事に全部事実なんよ……。


「えー!そんなこと言ったら可哀想じゃんー」

「エルフル、お前はいつも警戒心が足りないと言っているだろう?何をしてくるか——」

「シダぁ?あなたが警戒しすぎなんだよー。こんな可愛いキツネちゃんが悪い子なワケないじゃん!もふもふだし、ふわふわだし!」

「善悪にもふもふもふわふわも関係無い」

「あるよー!そんなガンコだからシダの毛は硬いんじゃないの?」

「やれやれ、これだから柔らかい毛を正義だと思ってる輩は……今は硬い毛が主流だ」

「そんな時代来ないもん!いつだってもふもふが正義だもん!」


なんか2匹が口論してる……。

しかもわりとどうでもいい話で…。


「2人とも」

「はっ……お見苦しい所をお見せして申し訳ありません、クーラル様。しかし人間が動物になるなどあまりにも……」

「俺は信じるぞ」

俺を疑うシダに対し、クーラルは笑って返した。

「なにか確証が?」

「いや、無いな。だが確証が無いなら探し当てる。それがお前達、黒の軍勢の偵察部隊だろう?」

「そうっ!私達こそ空の探偵!」

クーラルがそう言うと、エルフルは元気よく胸を張って言った。

ちょっと可愛い。

「……それで、私達はどうすれば?」

元気なエルフルに反して、シダは訝しげに質問する。

「この街のどこかで、人間が動物になる機械が作られているかもしれない。それについていろいろと探ってきて欲しい」

「かしこまりました、では後程」

「了解だよーっ」

2匹はそう言うと、俺の目の前から姿が消える。次の瞬間には既に空の中に居た。


「…なんだか対称的な方達でしたね…」

そう言うと、クーラルはニャハハと笑った。

「なかなかデコボコで面白ぇコンビだろ?でもああ見えて仕事はこなすぜ」

「そ、そうなんですね」

普段何気なく飛んでいたカラスがそんな事をしていたなんて…もうカラスを、っていうか動物を動物として見れなくなってしまう。



ーーーーーーー

「んでだ、これからどうする?」

あれからクーラルと他愛もない話をしていたら、空が黒く染ってきていた。

「とりあえず、今日は家に帰ります」

不本意だけど妹が待っているからな。

非常に不本意だけど。

「そうか、もし良かったら明日もここに来い。話してたヤツを連れていく」

「はいっ、分かりました」


こうして俺はクーラルと別れる。この時点で俺は二足歩行を完全に辞め、四足歩行が常になってしまっていた。まぁこの姿だとそっちの方が自然なんだろうけど、元人間としてはなかなか辛いものがある。言うならば、自分の人間としての常識が徐々にキツネに侵食されていくような。このままいけば俺はいずれ人間の頃の記憶も忘れて完全なキツネになるのでは……

「あーっ、考えるのやめやめ」

どうせこの姿は一時的なものだ。そんな一時的な環境で簡単にキツネに染まってたまるもんか。

俺はそう思い直すと、紫がかった夕暮れの中を歩いていった。

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