第5話 キツネとしての初めての出会い

季節は春。暖かな日差しの寵愛を体いっぱいに受けながら、1人と1匹は歩いていた。これが犬の散歩なら違和感が無いだろうが、生憎俺は二足歩行するキツネである。俺がキツネだからといって驚かれない仕組みだと先程妹は言っていたが、傍から見れば珍しいのか、すれ違いざまにじろじろと見てくる輩も居る。

「今日はいい天気だねー」

妹は空を見上げながら、爽やかに言った。

「やっぱこんな日は散歩するに限るよねっ」そんな妹に反して俺の精神はというとカオスそのものだ。こんなの絶対人権侵が……あ、今はキツネだから適応されないのかぁ。

「って、聞いてる?」

「やっ……え?あぁ、うん」

ぴんと立った耳をつつかれ、俺は現実に引き戻される。

「なんか元気ないよ?どうしたの?」

「兄を散歩させる妹がいるんですよ…」

「そうなの?それは酷い人だね!」

あれ?最早兄である事すら忘れちゃってる?

「あの、そろそろやめない?恥ずかしすぎるんだけど」

「大丈夫だよ、傍から見たらただのペットのお散歩だから」

そういうことでは無いんだけどぉ……。

「いやあの、人権的に…どうかと、ね…?」

「でもキツネじゃん?」

「……はい」

もうこのお方には何を言っても無駄だと悟った俺。せめて苦痛を少しでも和らげるように、無心でいる事にする。

そんなこんなで無心を貫きつつ10分ぐらい歩いていた時、急に妹の足が止まった。同時に俺も足を止める。

「あ、妹ちゃんー!」

聞きなれない声に顔を上げる。見れば妹と同じぐらいの背丈の少女がそこにいた。

「あ、みゃーちゃんじゃん!」

妹の反応的におそらく友達だろう。俺はなんか怖くなって本能的に妹の後ろに隠れた。

「ん?その子は?」

妹の友達はステルスMAXの俺の存在のいとも容易く見破ってきた。

「この子?この子はねーうちのお兄ちゃん!」

「んんんんんんんん?!!?!?!」

妹ォ!それを言ったらおしまいやろがぃ!

さっきペット言ってたんだからペットって紹介しろや!いやそれでも嫌だけどね!?まだマシだよ!!

「お兄ちゃん…?この子が?」

少女はしゃがみ、驚く程瞬で兄だとバラされて混沌を極めた脳内の俺と目線を合わせる。

「あ、あのえとえとえとおおお兄さんっていうかそのえとあのえと」

「へー、こんな可愛いお兄さんが居たんだ」

少女は俺の事なんてお構い無しに、俺のふわふわの頭をくしゃっとなでた。

「私、城山美耶。よろしくね」

そう言い、その少女……美耶は、にっこりと笑った。

「よ、よろしく……?」

俺は若干困惑しつつも挨拶を返す。

「というか妹ちゃん、お兄さんを首輪して散歩させるなんて……」

お、この世界にもまともな人が居たのか、うんおかしいよね?言ってやってくれ。

「妹ちゃんらしいなっ」


「らしいってなんだよっっ!!」

「そうー?なんだか照れるなぁ」

俺のツッコミを無視され、少女二人の談笑が続く。

(知り合いとばったり出会った飼い主の長話を待機してる犬ってこんな気持ちなのかな……)



「じゃあそろそろ行くね、またねー」

「また話そーね、みゃーちゃん」

30分後(体感時間)、ようやく話が終わった。

「ごめんねお兄ちゃん、長話に付き合わせちゃって」

「大丈夫だよ、今まさにもっととんでも無いものに付き合ってるから」

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

その言葉をどれ程待ちわびたか。これが終わればようやくこの体から解放される。受けた精神ダメージはもう回復しないかもしれないけど、一刻も早く今までのニート男に戻りたい。



「たっだいまー!」

「あぁ、やりきった………」

あの後は特に何事もなく、無事に帰宅した。

「ほら、約束だろ、早く元に戻してくれっ」

これ以上尊厳を踏みにじられる訳にはいかない、さっさと人間に戻ってオンゲーやるんだ、俺は妹の手から強引に機械を奪おうとする。

「わぁ、待って待って、すぐに戻すからっ…あっ」

「あっ」


妹の右手から握っていた機械が勢いよく飛び出した。

それは優雅に宙を舞い、2回転半して…


ガシャッ!!


フローリングの床へ叩きつけられた。


「………!!」

え?嘘?壊れた?

音的に壊れてない?大丈夫??

「あー……」

妹は機械を拾い上げ、いろいろと弄る。

頼むから壊れていないでくれ、俺は神に祈りを捧げた。

しばらくして…妹が顔を上げ、こちらに笑顔を向けた。

「お兄ちゃん?とても悪いニュースがあるんだけど……」

「……キキタクナイ」

「さっきの衝撃でケモ化メカさ……」



「壊れちゃった☆」

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