第4話 心が壊れる音がしました

「………」

「え?もしかしてドン引きしてる?」

当たり前です。

むしろ引かない人を見てみたいです俺は。

「ほら、言わないと…」

「分かった、分かったから!ちょっと時間をくれ!」

何これ、どういう状況?

起きたら妹にキツネにさせられて、首輪付けられる所ってカオスもいい所じゃないか。

なんかねっとりしたヘンな汗が出てきた。

心臓の鼓動が意味不明に加速する。

「お、俺、俺にぃ……」

ダメだ。それ以上はいけない。

いいのか?戻れなくなるぞ?

仮に人間に戻れても、もう妹を妹として見れなくなるぞ?

いいのか、俺。

いや、でも言わないと………

俺は深く息を吸って、吐いた。

「……さぃ」

「え、なーに?」

張り上げたつもりの声は、虫の声のようなか細い音として喉からひり出た。

ニヤニヤしながらこちらを覗く妹。

「俺に、首輪……」

「もっとはっきり!」

あぁ、もうどうにでもなれ——

「俺に首輪つけてくださぁいっ!」

言った。言ったぞ。

もう戻れないかもしれないけど。

…あの、妹さん?なんで黙ってるんですか?

なんか喋ってください……いや喋らないで。

「…へぇー、妹に首輪つけられたいんだァ」

S嬢のそれのようなセリフを吐く妹。

何も言えずに固まる俺。

「…ふぇ……」

あれ、おかしいな、なんか涙が……

「泣いてるの?大丈夫?」

俺の頭をなでなでする妹。

大丈夫じゃないです。もう昨日までの俺には戻れそうにないです。

「しょうがないなぁー…ほら」

年下の子をあやす様に頭をポンポンと優しく叩かれた後、俺の首に柔らかいものがあてがわれる。


これが首輪。

恥ずかしいとか悔しいとかそんな感情は無い。ただ何かが確実に壊れる音がした。

「あ、あはは……」

何笑ってんだ俺は。しっかりしろ。

「ほら、つけたよ、似合ってるねー」

俺の首にはピンク色の首輪がついている。人間の生活では有り得ない状況に俺の何かが目覚めたような気がした。

「あんまり見るなよ……言うこと聞いただろ、ほら!」

俺は元に戻すように妹を睨む。

「え?まだだよ」

「まだ…?」

ゾクっと背筋が凍る。

「首輪つけたらさ、お散歩しなきゃね」

「…なん……だと……?」

呆然とする俺。

気がつけば俺の首輪には既にリードが着いており、その先は妹が握っていた。

「ほら、いくよー」

「や…やだやだやだやだやだやだ!やだぁぁ!」

必死に抵抗するも哀れ、俺は半ば引きずられるようにして外の世界に連れ出されてしまった……。

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