第3話 俺の尊厳はもう壊れてしまいそうです
「それで……どうして俺をこんな姿にしたんだよ?」
ようやくもふもふから開放された俺。
「んー…だってお兄ちゃんってニートじゃん」
妹はなんの罪悪感もなく、そう答えた。
「ニートにも人権はあるんですよ…?」
「勤労の義務果たしてないじゃん?」
グサッ。心に鋭いものが刺さる。
「そ、それは、それはそうだけどぉ…」
「だから、お兄ちゃんには何してもいいかなってさ!」
妹の満面の笑みが怖い。
俺は実験のモルモットってこと……?
こんなに怖い現実が未だかつてあっただろうか。実の妹にモルモットにされる現実が。 …キツネだけど。
「でもどうすんだよコレ……こんな姿じゃ外に出れないぞ?」
二足歩行で言葉を話すキツネなんて人の目に触れたら政府に捕獲される事は明白だろう。生憎ここはファンタジーの世界じゃないのだ。現実なのだ。
「あぁ、それなら大丈夫だよ」
そう、妹は妖艶な笑みを浮かべた。
「大丈夫って……」
非常に嫌な予感がする。
「このケモ化メカでケモ化した人間は、最初からケモノとして生まれたことになってるから」
「というと……?」
「お兄ちゃんが外で何しようと、周りは気にしないーってこと!」
なるほど、よく分からんけどわかった。
「あの……元に戻してください…」
「ダメ」
「そこをなんとか」
キツネ、迫真の土下座。
「ダメ」
「くぅ……!」
「うーん……あ、そうだ」
妹はわざとらしく手をぽんと叩く。その後何かを取りに部屋を出ていった。
ポツンと取り残される俺。
なにか凄く、ものすごく嫌な予感がする。
2分後、サイコパスが人を拷問にかける時みたいな笑顔を浮かべた妹が戻ってきた。
「お兄ちゃん?言うこと聞いてくれたら、元に戻してあげる!」
そう言う妹の手には首輪とリード。
俺はこれから自分の身に降りかかる災難を2秒で理解した。
「ちょ……待て待て待てっ!おまっそれはダメでしょ!」
「え?どうして??」
きょとんとした顔の妹。
妹よ、なんでそんな表情が出来るんだ。
「だってそれアレだぞ?それはえっちなぷれいというかSMというか、それを家族間でやるのは流石に…!」
「大丈夫だよ」
俺の頭に妹の手が覆い被さる。
「お兄ちゃんは今はキツネ。つまり私のペットなんだから。ペットを散歩させるのは何もヘンじゃないでしょ?」
「ぇ……きゃぅ…」
あまりの気迫にヘンな声が出る。
あれ?妹ってこんな性格だっけ……?
いつも大人しく読書とかしてるイメージなんだけど?こんなクレイジーサイコケモナーじゃないハズなんだけど?
と、ともあれ、己の尊厳を守る為にもこれは呑む訳には行かない。決して。
「ダメだって!そんな事されたらなんか目覚める可能性あるから!俺の中の何かが!目覚めてはいけない何かが!」
「えー?いいのかなぁ?」
妹は勝ち誇ったようにメカを俺の目の前に置く。
「言うこと聞いてくれたら、元に戻すのになぁ?」
「…ぐぅ…卑怯者ぉ……!」
「なんとでも言いなさいっ、それで、どうするの?」
俺の目の前には首輪とリード。
そしてケモ化メカ。
どちらを選んでも地獄になるが……これを断ったら一生この姿のままって可能性も…!
妹のサド具合を見る限り、この機会を逃せば間違いなくしばらくキツネ生活だろう。
「……ホントだな?ホントに戻してくれるんだな?」
しばらくの静寂の後、重い口を開く。
「分かってるよ、じゃあほら」
妹は首輪を俺の手に乗せる。
「え……?」
「首輪つけてくださいっておねだりしな?」
……妹は嬉しそうに、なんの罪悪感も恥ずかしげもなくそう言った。
あぁ、俺に降りかかった受難はまだ始まったばかりのようです…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます