第2話 キツネはやっぱりモフモフだよね

「わぁぁ!待て!違うんだ!違う!」

我ながら何が違うのか説明出来ない。けど違う。断じて違う。

妹はしばらく不思議な表情で俺の顔をじっと見ていたが、ずんっと1歩こちらに詰めてきた。

「ちょ、まて妹!俺だ!おっ…!?」


もふぅ。


「ちょ、え……なにを?」


もふもふ。


「あ、あの妹…妹様…?何をしてらっしゃるんですか…?」

次の瞬間、妹の殺人ハグが俺を襲う。

「おぶっ!?」

俺はなんとか手足をジタバタさせて妹による絞め技から逃れようとしたが、今の貧弱な身体じゃそれも叶わず…。

「も〜〜〜〜…っ」

妹が何やら悶えている。今悶絶したいのはこちらなのだが。

「可愛いいいっっ!!」

「きゃう゛っ!」

奇声と共により一層強くなった抱擁により、俺の意識は見事に落とされてしまった……。




ーーーーー

「おーい」

……ん?俺を呼ぶ声が聞こえる…

「おーい?」

…………

「おーいってば!」


もふぅ!


「ぎゃっ!」

「おはよう、大丈夫?」

目が覚めると、妹の満面の笑みがあった。慌てて体を確認するも、キツネのままだったけど。

「大丈夫じゃないけど大丈夫」

「そ。なら大丈夫だね!」

妹は無抵抗な俺を容赦なくワシャワシャしてくる。

「それで……なんで俺がこんな姿に?」

「うーん…?なんでだろうね~?」

俺が問いを投げると、妹は明らかに何かを隠すように手を後ろにやった。

「お前がなにかしたんだろ?怒らないから正直に言いなさい」

「……ま、隠してもダメかぁ」

諭すように言ったのが功を奏したのか、妹は手を前に持ってきて、左手を広げた。

「……なんだこりゃ?」

そこにあったのは謎の機械。どうみても長方形をした小さな鉄の塊にしか見えないと思ったけど、よく見ればスイッチがある。

「これはねー」

妹は1呼吸置き、言った。

「私が発明したケモ化メカ!これを使うと誰でもケモノになっちゃいまーす!」



「…あの、拍手とか歓声とか無いの?」

「無いんだな、これが」

だってその発明品の犠牲者が俺だもん。

「てか発明品って……いくら進学校の卒業生だからってそんな事出来ねえだろ」

「実際できてるじゃん?工業高校を差し置いて」

「うぐ……」

そう言い返されると立つ瀬がない。事実俺は涙が出る程に完膚なきまでにキツネになっているのだから。てかなんでや!工業高校関係ないやろ!


「まぁとにかく、そういう事ならさっさと元に戻してくれ!」

「怒った顔も可愛いいい~」

「やめろ、ぷにるな!」

「そんな口聞くとヘンなとこ触っちゃうぞ?」

そういう妹はすげードSな顔をしてる。そんな顔見た事ないぞ。いつものゴミを見る目の方がまだ気が楽だ。

「ヘンなとこってどこだよ…!」

「ここかなぁー?」

「あひっ!?」

尻尾の根元を握られただけで、何故か変な声が出てしまう。

「ちょ、ちょっやめ…!」

必死にそう懇願するも、握る手に力が入ってくる。

「んっ、んふっ!だめらってっ…!」

「ちょっとだけ、もうちょっとだけ…!」

「んぁっ、くっ…ころせぇぇぇぇ!!」


これが俺のケモ生としての最初の洗礼であった……。


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