3、門外不出の微笑み


―――


「あはは!イメージって……芸能人か政治家か!」

「それ、さっき俺が言った。」

「ちょっとぉ~翔くん。口挟んでこないでよ。っていうかいつも思うんだけど、翔くんって優斗くんの事となると僕につっかかってくるよね。」

「何言ってんだよ。慎、お前だって俺と優斗が話してるだけでヤキモチ妬くじゃんか。」

「ヤ、ヤキモチなんて妬かないよーだ。」

「妬いてるって!」

「妬いてない!」


「うるせぇ!仲良いのはいいけど、俺今明日の朝礼の準備してんだよ。静かにしろ!」


 翔と慎が何やら押し問答を始めたが、優斗の一喝でピタッと止まった。


「「ご、ごめん……」」

「わかりゃいーんだよ。」

 そっけなくそう言うと、優斗は再び机の上の資料に目を戻した。


「まぁまぁ、翔くんも慎も優斗くんの事好きなだけなんだよ。そんなに怒らないでよ。キレイな顔が台無しだよ。」

「……啓吾、お前死にてぇーのか?」

「い、いやいや!ごめん、黙るね。」

 優斗にそれはもう凶悪な顔で睨まれて、啓吾は慌てて机の下に隠れた。


「優斗く~ん、ちょっといい?勉強教えて欲しいところあるんだけど。」

「……さとちゃん、空気読もうよ……」

「え、何が?」


 重い空気の中、のほほ~んとした聡の声が響く。慎は思わず突っ込んだ。


「……ったく、仕方ねぇな。どれ?」

「あ、ありがとー。優斗くん。」

 資料を机の上に置いて、優斗は顔を上げる。聡は嬉しそうに教科書を持って、優斗の隣に腰を下ろした。


「聡には甘いよな、優斗って……」

「ホント。羨ましいよ、さとちゃん……」

「目で殺されるとこだった……優斗くん、こわい……」


 勉強会を始めた二人を遠巻きに眺め、それぞれぼやく三人だった……




―――


 数分後――


「翔くんの言う通り、キャラ作んなくていいと僕も思うな。」

「あ?何だよ、急に。」

 聡とまだ勉強会を続けている優斗を恨めしげに見ながら、慎は言った。


「ホントの優斗くんってこんな人なんだよって、皆に声を大にして言いたい!」

「ば~か。そんな事言ったら、俺のファンが減る。」

「……ファンがいる自覚はあるのね。」

 翔が脱力しながら言うと、優斗はさも可笑しそうに笑った。


「はは、冗談だよ。」

「冗談に聞こえないからこわい……」

 先程のショックを未だに引き摺りながら、啓吾は言った……


「キャラっていうかこれは癖みたいなもんで、高校入って友達作る時に愛想良くしたら面白いくらいに友達増えてさ。で、これは使えるって思ってやってたら、いつの間にかこうなってた。」

 淡々と語る優斗を憮然とした顔で見ると、翔は徐に立ち上がって言った。


「でもさ、愛想良くしなくたってお前はお前のままでいいと思うけどな。」

「そうだよ、翔くんの言う通り!珍しく意見が合ったね。」

「そうだよな!」


 ケンカしていたはずの二人が急に仲良くなったのを、聡は怪訝な顔で見つめた。


「川島たちも、ホントのお前知ったって別に何とも思わねーって!」

「そうそう、だって皆優斗くんの事、大好きなんだから。逆にファン増えるかもよ。」

「あいつらと仲良く遊ぶのもいいけど、俺はお前らとこうしてる方が好きだからいいんだよ、今のままで。」


 優斗の一言に四人が一斉に固まる。優斗はそんな空気に首を傾げた。


「どうした?俺何か変な事言ったか?」

「優斗(くぅ~ん)!!大好き!これからも俺ら(僕ら)だけの優斗(くん)でいて~!」

「うわっ!くっつくな、マジでウザイっつーの!」


 そう叫びながら抱きついてきた四人を足蹴にしながら、優斗は四人以外には見せた事のない微笑みを浮かべたのだった……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜高校の生徒会が色んな意味でヤバすぎる件について @horirincomic

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ