2、イメージ


―――


 彼ら五人は全校生徒の視線などおかまいなしに、さっさと昇降口へと入って行った。


「今日の一限目何だっけ?さとちゃ~ん。」

「数学だよ、慎。そうだ、課題やってきた?すごい難しかったね~」

「げーっ!忘れてたー!どうしよ~、優斗くぅ~ん。」

「あぁ?俺に言われても知らねーよ。自分がわり~んだろ。」

「優斗、優斗。出てるぞ、黒いオーラ。」

「あ、やべっ!」

「っていうか皆、早く教室行こうよ。チャイム鳴っちゃうよ。」

「うわっ!マジか!」


 啓吾の台詞に五人は慌てながら、それぞれの教室へと向かったのだった。




―――


「はい、それでは次の文化祭の出し物は、仮装喫茶で決まりです。今決めた通り、それぞれのリーダーの指示で各自準備に取りかかって下さい。」

「は~い。」


 帰りのホームルーム、優斗の声が響き渡る。クラス中の生徒が優斗の声に一斉に手を上げた。


「今居、ご苦労様。じゃあ皆、明日から文化祭の準備よろしく頼むぞ。」


「は~い。」「ほ~い。」などとバラバラな返事と共に、それぞれ帰り仕度を始める。


 優斗は今まで立っていた教壇から下りて、自分の席へと戻った。


「優斗ぉ~」

「おっ、川島、どうした?」

「文化祭、仮装喫茶に決まりかぁ~何か女子だけの意見で通ったって感じじゃねぇ?何かめんどくせーな。」

「そうだな。でも見てみな、ほら。女子たち、すっげー楽しそうじゃん。あんなん見たら、俺ら男子も頑張んなきゃなって思うじゃん?」

「そ、そうだな。うん、お前の言う通りだよな。よしっ!俺頑張るよ!」

「おぅ!頑張れ~」


 優斗に目の前でキラキラの笑顔を見せられた川島はさっと顔を赤くし、俯いた。


「おーい、優斗~!行くぞ!」

「おぅ、今行く。」

 教室の出入口から優斗を呼ぶ声。優斗は振り向き、返事をした。


「おっ!羽村、また明日な。」

「おう、川島。気を付けて帰れよ。」

「おー。」


 翔と川島が挨拶を交わしている間、優斗はカバンを持つと、川島に軽く手を振って翔の元へと向かった。


「川島と何話してたんだよ?」

 廊下を歩きながら翔がそう口を開く。

 優斗は一瞬周りを確認した後、今までのニコニコした表情を消した。


「別に。川島が文化祭めんどくせーって言うから、女子たちの事も考えて頑張れって言っただけ。」

「ふ~ん……つぅかさ、いつも言ってるけどそんなにキャラ作んなくても良くない?素のお前の方が、俺はす、すきだけどな。」


 急に赤くなる翔に、首を傾げながら優斗は言った。


「だって生徒会長様はイメージが大事だろーが。」

「イメージって……お前は芸能人か政治家か!」

「カカカ。」

 翔のツッコミに、優斗は独特な笑い声をあげた。


 優斗と生徒会室に向かいながら、翔はふと思う。


 この隣を歩いている生徒会長様は、自分でも言っている通り、とにかくイメージを大切にしている。


 いつもニコニコして明るい性格。誰にでも優しく気さくに話しかける。


 廊下にゴミが落ちていればすぐさま拾う。重い物を抱えている人を見たら助けてあげる……


 しかしその実、本当の優斗の姿は誰も知らない。


 生徒会のメンバーをのぞいては。



 ――いや、知らない方が良いのかも知れない。


 本当の優斗は全校生徒が抱いているイメージとはまっっっっったく!


 かけ離れているのだから……



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