第2話 充電
「失礼します」
結局根負けし、彼女を家に上げることにした。すると彼女は玄関でそういったのだ。
本当に彼女はアンドロイドなのだろうか。
そう思うくらい自然な発音と、タイミングでの言葉。
うちが作ってる最先端アンドロイドより上なんじゃないのか。
一体、誰が作ったんだ。
この精巧なアンドロイドは、なぜか僕がUSBを持っていることを知っている。
ちゃんと脱いだ靴を後ろ向きに整えている彼女を疑わし気に見やる。
「こちらです」
彼女を祖父の遺品が置いてある部屋へ連れていき、ソファに座らせると少し待つように言う。
部屋の棚に顔を向ける。
棚には、様々な古い機器や、歴史的規格のケーブルを置いてある。多数のDVDソフトに、ビデオデッキ、PS2。20MBのRAM、SCSI、RS232Cなんていう使い道のわからないケーブルもある。
その中から目当てのケーブルを見つける。
「あった、これだ」
USB2.0ケーブル。
遥か昔、一世風靡したと祖父からは聞いたことのあるケーブルだが、現在は充電、通信、データ転送、あらゆるものが無線化されて久しく、ケーブルを使うことはほぼない。
業務用では、速度遅延防止のためケーブルを使うこともあるが、一般人でケーブルを使うことはまずない。
意気揚々と彼女のほうへ振り返ると、
「え……」
彼女はぐったりとしていた。顔は紅潮し、息も絶え絶えで苦しそうだ。
「ど、どうしました?」
「で……」
薄く目を開くと、声を吐く。
「で?」
「電池……」
と彼女は手の平をこちらに見せてきた。
そこには、よくよく注意しないとわからないくらい薄く数字が表示されている。
2
「や、やばい!」
慌てて彼女の首元に手を出そうとして、躊躇われる。
アンドロイドとはいえ、見知らぬ乙女の肌に許可もなく触れていいのだろうか。
しかし、こうしているうちにも彼女の顔色が赤から青に変わり、呼吸が浅いものに変わっていく。
「ごめん」
僕は決心すると彼女の長い細い髪をかき分ける。
柔らかな肌触りと肌の温もりも本物同様。
そんなことを考えながら、首元の端子を見つけるとケーブルを差しこんだ。
かちっという小さな音と感触に手ごたえ。
これでいいんだっけ。
彼女の様子を眺めるが、苦しそうな表情は変わらない。
ケーブルのもう片方をたどると、もちろん何も繋がっていない。
現在はワイヤレスで電気が機器に伝えられるのが一般的だ。
しかし前時代の機器の場合、物理コンセントに差す必要がある。
再び棚の中から、必死で探す。
プラグを見つけたとき、彼女の手の平の数字は、1だった。
冷や汗を拭う。
充電が始まると、
甲高い電子音が響き、彼女は穏やかな眠りに落ちた。
寝息とともに、苦しそうだった呼吸が、穏やかなものになる。
「よかった」
僕は安堵してその場に座り込んだ。
静かに眠る彼女の寝顔を見つめる。
なんてきれいな寝顔だろう。
しばらく見惚れてしまい、そして頬を掻く。
ブランケットを彼女にかけると、すっかり温くなってしまった缶ビールを飲み干した。
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