朝の匂い

芹沢ジュネ

朝の匂い

A氏の場合。


ひんやりとした部屋でひとり、

重いまぶたをこすりながら、

誰に届くわけでもない絵を描く。

マーカーペンの匂いが鼻を刺す。

この匂いに朝を感じる。

あぁ、また「今日」が始まる。


B氏の場合。


陽の光に起こされて、目を覚ます。

机に置きっぱなしのコーヒーが私を現実に連れていく。

新聞を手に取る。

今日もまた、似たようなニュースに目を通す。

お湯の沸く音にワクワクして、

コーヒーを入れる。

スゥーと息を吸うとコーヒーの香ばしい香り。

これこそ、わたしの朝だ。


C氏の場合。


まだ暗い空。

まだ寝たいと言う体に鞭打って、

風のようにバイト先に向かう。

僕がいないと始まらない店。

今日もまたパンの焼ける匂いに囲まれる朝。



A氏。


ひと段落したら、朝食の時間。

お気に入りの食パンはここでしか入らない。

朝の出来立てを買いに行く。

これはわたしの唯一の楽しみだ。

いつもの店員さんに今日はありがとうと言いたい。なんて。恥ずかしくて言えない。


B氏。


仕事に行く前に、朝食を買っていく。

朝早くからやっているパン屋はありがたい。

そして、今日も、同じ店員に、会釈をする。


C氏。


開店直後にやってくる常連さん。

喋ったことはないが、会釈をしてくれる。


それから、毎日、食パンを買ってくれる常連さん。

出来立ての文字に頬を緩めている。


またいつもどおりの1日だ。

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朝の匂い 芹沢ジュネ @june_s

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