第9話 まさかの戦力外通告?

 木を削って自家製バットを作り終え、いよいよ準備は整った。

 素人同然とは言え、バッターを立たせて投球できる。そのことに太地は心から浮かれていた。

 アベルの姿がそんな太地の目に止まる。

 先ほどまではハゲた頭にしか感心がなかった太地であったが、改めてアベルの体格の良さに、今更ながらに気がついた。

  

「むむっ!? おいアベル。お前なかなかいいガタイをしているな。……ちょっとこのミットをつけて、俺が投げるボールを受けてくれないか?」

「は、はあ……」


 言われるままに、スキンヘッドのアベルが腰を落とす。

 太地はいつもと同じく腕を振りかぶり、自慢の豪速球を繰り出した。


 ———ズバゴォォォォォォオン!


「ぐうううぅぅ!」


 アベルは顔を歪めながらも、太地の速球をしっかりと受け止めた。


「次! 曲げるぞ!」


 太地が再び投球モーションから豪球を放った。今度は手元で、右へとボールがスライドしていく。

 

 ———ズバドォォォォオォン!


 さすが武道家のアベルである。その動体視力で初見のスライダーをものの見事に捕球した。


「おいライム!」

「は、はい!」


 太地に呼ばれ、ライムが元気一杯に駆け寄っていく。


「……お前、キャッチャークビね」


 突然告げられた戦力外通告。あんまりである。

 これにはさすがのライムも我慢ができない。

 今までの辛い日々はなんだったのか。ライムの目から大粒の涙がぼろぼろ溢れだす。


「うわぁああああああああぁんんんっ! ヒドイですヒドイですぅぅ! 今まで散々付き合ってきたのに、用がなくなったらポイですか!? 太地さんのバカバカァ! もう嫌いですぅぅ!」


 ギャンギャン泣き喚くライムに、これにはさすがの太地も困り果ててしまう。

 うーむと腕を組んで悩む太地。

 突如ぺかりと名案が閃いた。


「か、勘違いするなライム。お前にはアンパイアをやって欲しいんだ」

「ひっく、えっぐっ……あ……あんぱい……あ?」

「そうだ。キャッチャの後ろに立って、ストライクかボールを見分ける役目だ。そうだな……野球で言ったら言わば神のような存在だ。お前の判断ですべてが決まるんだ」


 太地はそっとライムの肩に手を乗せて。


「お前にしかできない役目だ。……信じているぞ。ライム」

「は、はいっ!」


 ……ライムはちょろかった。


「おっと、そうだ。アベルとライムにはマスクを作らないとな。あと、ライムはちんちくりんだから、何か台でも用意しないと。……よし、みんな! もう一度木を切り出しにいくぞ!」


 皆すっかりと、太地のペースに巻き込まれていた。

 手分けして木を切り出して終わり、木製のマスクとライム専用のお立ち台が作られていく。


 ちょうどいいタイミングで街へと買い出しに行っていたクロードが、崖を上って戻ってきた。

 

「はぁ……はぁ……た、太地さん。頼まれていた布を買ってきました。あ、あとライムちゃんと太地さんに服も買ってきました」


 ライムはピンクのワンピース、太地は半ズボンとTシャツを受け取った。


「おお、なんだか悪いなクロード。遠慮なくいただくぞ。……では全員揃ったので、これからルールの説明する」


 太地の前に四人が並んだ。


「アベルはキャッチャーになった。俺の投げるボールを受ける役目だ。なので、俺の味方ということになるな。ライムはアンパイアだ。まあ簡単に言うなら俺の投げるボールが有効か無効かを見極わめる役目だ。公平な判断を頼むぞ。残りの二人が俺の相手だ。毎日一打席ずつ勝負する。この木のバットで俺の後ろよりボールを打ち返したら、お前らの勝ちだ。……以上になるが、何か質問はあるか?」


 太地の言葉にセシリオがおずおずと手を上げた。


「あ、あのぉ……私もその、太地さんと勝負をするのですか?」

「当たり前だ! 俺は野球に関しては女や子供はもちろん、今にも死にそうな老人ですら一切手を抜くつもりはない! 覚悟しろぉ!」


やる気満々の太地の顔を見て、セシリオの美しい顔が引き攣った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る