第8話 三人の目的は
「———むむっ! 何者だ、アイツは」
その言葉に、ライムも太地の視線を追う。
崖っぷちから上半身を乗り出して、鎧を纏った一人の男が這い上がってきた。
「こんな人気のない場所に登ってくるなんて……明らかに怪しいですね」
「今のうちにやっちまうか」
太地は崖を登ってくる男めがけて、ゆっくりと投球モーションに入る。男は太地の殺気に気がついたのか、ぎょっとした表情で慌てふためいた。
「ま、待ってくれ! 俺たちは怪しい者じゃない!」
男は崖を完全に登り切ると、崖下に手を伸ばす。その手を掴んで一人、また一人と高台に次々と新キャラが登場。
男二人と女が一人。
昇格試験のために【精霊界】が用意したこの修行場に、よくもまあ登ってこれたものだとライムは感心した。
謎の一行は土埃をパタパタ払い落とすと、ゆっくりライムたちへと近づいてくる。
そして太地の前で立ち止まると、最初に登ってきた青髪短髪の男がぺこりと頭を下げた。
「俺たちは『漆黒の魔王』を倒すためにパーティを組んだ者です。俺はクロードと言います。後ろにいるのはアベルとセシリオです」
ガタイのいいスキンヘッドのアベルと、桃色の長い髪のセシリオも頭を下げて挨拶をする。
「……ほう。で、俺に何か用でもあるのか?」
「はい。王都で有名な易者が『西の高地に新たな勇者が誕生した』と、お告げを出したのです。それで俺たちはここまでやってきました。……やはりお告げは間違ってはいなかった。あなたは素晴らしい力をお持ちのようだ。どうか俺たちと一緒に魔王を」
「とっとと帰れ」
「「「!?」」」」
ひどい言い草である。だが一人、そのやりとりに衝撃を受けた者がいた。
ライムである。
———そうよ! そうだったよぅ! 『漆黒の魔王』を倒して早く【精霊界】に戻る目的を、すっかり見失ってたわぁぁぁぁああああアアア!
今更ながら己の使命を思い出したライムは、三人に向けて秘技を放つ。
「せいれーい! スコープぅぅぅうううううううう!」
———ほほう。青髪が攻撃力250、ハゲは280、女は攻撃力はないけど、神の加護があるようね。おそらくプリーストだわ。
「……あ、あのぅ。この半獣の子、一体どうしたんですか……?」
「ああ。ちょっとイタい子なんだ、わかってやってくれ」
「は、はぁ……」
「イタい子ちゃうわ!」
三人ともなかなかどうして実力者のようだ。ライムはチャンスとばかりに太地に詰め寄った。
「太地さん! この人たちと協力すれば、『漆黒の魔王』を倒せるかもしれません!」
「それは俺がピッチングを極めてからって約束だろ?」
「ぐっ……確かにそうですが……」
そんなやり取りを見ていた三人が、再び頭を深々と下げた。
「お、お願いします! 魔王討伐に協力してください!」
「いや、だからな……」
太地の言葉がピタリと止まる。
アベルの前までツカツカと歩いて行き。
「お前……苦労してるんだな……その若さで、そんなツルッツルだなんて……」
「え……お、俺は武闘家だから、髪は自分で剃って……」
「わかってる! 皆まで言うな! 俺もわかるぞ、ハゲの辛さを……切なさを……」
アベルの肩に手を置いて、うんうんと頷く太地。
どうしてよいか困り果てうろたえるアベルに、ライムを筆頭に他のみんなが「よくわからんが、そういうことにしておけ」と、小声でアドバイスを送っている。
「そ、そうなんですよ。は、ハゲてるともう人からさげすんだ目で見られるし、女なんかちっとも寄ってこないし……挙句の果てには子供たちから石を投げられ、ツバを吐かれる始末。ハゲてから今まで、いいことなんてこれっぽっちもなかったです……」
アベルの言葉に、太地は天を見上げて涙していた。
「……お前らの気持ちは痛いほど伝わった。俺もハゲをないがしろにするほど落ちぶれちゃいない……」
「で、では! 俺たちと一緒に」
「ただし! 条件がある! 俺のボールを打ち返したら、お前らに協力してやろう」
「「「!?」」」」
……こんなことだろうと、予想はしてました。
ライムは心の中でため息をつく。
「よし! そうと決まればバットを作らないとな。あと、ボールももう少し欲しいところだな」
太地の視線が三人の間を行き来する。クロードは鎧を纏い、アベルは関節を覆う防具を身につけている。白い法衣を着たセシリオに視線が止まり。
「太地さん! それは完全にNGです! 訴えられたら完敗です! この物語はR指定してないのでそれだけは、絶っっ対にダメです!」
「ちっ」
ライムが両手を広げてセシリオの前に立ち塞がると、太地は舌打ちをかましてきた。
太地は野球のことになると太地は見境がなくなってしまう。ライムは慌ててクロードにお願いをする。
「えっと……クロードさんですよね? 苦労して登ってきたのに大変申し訳ないですが、近くの街で布切れを買ってきてもらえませんか? このままだとセシリオさんが剥かれてしまいます」
それを聞いたクロードは。
「そ、それはマズい。布を買ってくればいいんだな。……あと、ついでに君の服も買ってきてあげよう。葉っぱで胸を隠してるだなんて……よっぽど大変な目にあったんだね」
逆にライムに同情した。
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