第2話 初めての地上
「さて、着いたぞライム」
広くなだらかな平地の右側には小さな森が存在し、左側には小さな小屋が見て取れた。
よく見ると、ここはどこか高台のようだ。見下ろす景色には、小さな建物が点在している。
「うわぁ……これが土の匂いってヤツなんですね……って師匠!? ……その体は!?」
ライムの横にいたディールは、人間に姿を変えていた。
……いや、よく見るとなんか微妙に違う。
小さな老人のようだがぱっと見は、ヨー●だ。
さすが【精霊界】。怖いもの知らずだ。版権などお構いなしである。
「で、師匠。私はどうすればいいんですか? 『漆黒の魔王』でしたっけ? そんなのこの私が倒せる訳ないじゃないですか!? 精霊昇格会議ってバカの集まりなんですか?」
「何もライムが直接『漆黒の魔王』を倒す訳じゃないぞぃ。ここは言わば試練の場となる人間界。ここに別の人間界から若者を召喚するのじゃ」
「……はい?」
ライムでなくとも疑問が生じるのは当たり前だ。
「どうしてそんな、くそ面倒くさいことするのですか?」
「うむ。人間界から別の人間界へ召喚されるとな、とてつもない能力を引き出されるのじゃ……と、ラノベに書いてあった」
「ラノベの知識かい!」
「いや、それだけじゃないぞ。人間界NO.7の地球、その小さな島国日本ではの、転生や召喚に飢えておる。これは人間のためでもあるんじゃ。まさにwin-winってやつじゃな。そしてワシら精霊はそのサポートをして、この世界に名声を残す。それが上位精霊になる条件なのじゃ」
どうにも腑に落ちないディールの説明に、感情が急速度で冷めていき、ライムの体の光が弱くなる。それでもライムはめげないで、最大の疑問を口にした。
「……師匠、その上位精霊になると、なにかいいことでもあるんですか?」
ディールはよくぞ聞いたと顔に笑みを浮かべつつ。
「……精霊内で、チヤホヤされるのじゃ」
「それだけっ!?」
【精霊界】、どうかしていると思う。
「では異世界人を呼び出す前に、お主のその姿を何とかせねばのう」
ライムは緑色のほわほわな精霊体のまま。実体がない。
ディールは辺りを伺うと、小さな森に目を向けた。
「ふむ……あれでよかろうて。……そりゃ!」
ディールが手にした杖を振り上げると、森から一条の光りが上がってくる。
その光は真っ直ぐにライムへと近づいていくと、精霊体と融合した。
「よし! これで完璧じゃ!」
実体を得たライムは、体の重みにまず驚いた。
しばらくして慣れてくると、ライムは恐る恐る自分の手を見る。
……うん、普通だ。
なんだかんだ言ったところで、ライムも人間への憧れは強い。そして今、実際に人間の体を手に入れたのだ。
胸をときめかせながら、ライムは地面の小さな水溜まりへと顔を近づけた。
「…………師匠」
「何じゃライム」
「これ、人間じゃ、ないですよね?」
クリッとした瞳とちょっと突き出した鼻からは左右にひげが伸びていて。
そして極め付けが、頭の上につけられた三角形のモフッとした耳。
水溜まりに揺れる影。よぉく見るとぽむっと膨らんだ尻尾だった。
オーバーオールにTシャツを着た半獣のライムは涙目で、ディールに詰め寄った。
「師匠ぉぉぉぉぉぉお! これ、半分狸じゃないですかぁぁぁああああああ!」
「手頃な
何を根拠にそう言っているのだろうか。この
「ではライムよ。ワシは精霊界へと戻るぞぃ」
「ちょ、待てええぇぇぇぇぇぇぇ! 召喚は? 別の世界からどうやって人を召喚すればいいの!?」
「これにすべてが書いてあるわい。そう難しいことじゃないぞ」
そう言って、ディールが紙を一枚手渡してきた。
「日本人の男子は扱いやすいぞ。こちらの事情を把握してくれて、精力的に動き回ってくれる。『チート』『モフ獣人』『ロリ』。このあたりを抑えておけば、大概なんとかなる。……よいか! いざとなったら語尾に『にゃ』をつけることですら、躊躇うでないぞ!」
「よい報告を待っているぞ」と捨て台詞を置き去って、ディールの姿は消滅した。
———『にゃ』って……どう考えてもおかしいでしょ……それならば、なぜ小狸の姿にしたんだろう。
あのアホ師匠、言ってることがメチャクチャだよぉぉ!
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