異世界で『二刀流』を極めたいけど勇者が色々痛すぎて! 〜モフちび精霊ライムは、今日も苦労をしています〜

蒼之海

第1話 精霊昇格会議

 果てしなく広がる透明度の高い空間は、厳かだけどそれでいて、どこか親しみのある景色だった。


「んんっ、ゴホン。えー。それでは只今より『第1486回精霊昇格会議』を始めます」


 青色に発光するホワホワな球体が、やや甲高い声に無理矢理威厳を被せて話し出す。

 

 ここは限られた存在ものしか知らない【精霊界】。

 精霊たちが暮らすこの世界は、現世と天界の狭間にある。


【精霊界】と言ったところでどこかほっこり見えてしまうのは、精霊たちの姿形にあるのだろう。無数のほんわりとした球体が、青色の球体を囲むようにしてひしめき合っている。


 球体の正体———それはもちろん精霊そのものだ。それぞれが実にさまざまな色の光を発している。


 その中で緑色に光る精霊は、どこか不安げな様子。

 他の精霊たちに比べ点滅を激しく繰り返しているのが、何よりの証拠。

 

 その精霊の名は、ライム。彼女(?)の心中は今、穏やかではない。


 ———昨晩師匠ディールが言ったあの言葉を、ウソだと信じたいよぉ。呼ばれるな。呼ばれるなっ、呼ばれるなぁ!


「……ライム。一歩前に。皆の前に出てきなさい」


 くそぉぉぉ! やっぱ呼ばれたぁ! 


 その言葉にライムは師匠へと振り返る。師匠ディールは「どうだ! ワシのコネは!」と言わんばかりに、嬉しそうに赤い光を激しく点滅させていた。


 ———ばかぁぁぁぁ! 私はそんな面倒なこと、これっぽちも望んじゃいないのよおぉぉぉ!


 周りの精霊がライムにぽむぽむとぶつかって、取り囲む輪から押し出していく。ライムは渋々と、ふわふわ前に進んだ。


 大体精霊なのに「一歩前へ」っておかしいじゃない。足なんて、ついてないんだから。

 

 精霊たちは皆、人間が好きだ。

 暇さえあれば人間界を覗き見しては、大騒ぎ。

 皆、人間の独創的な思考と自由な発想力、そして急速度で成長を遂げる文化に憧れを抱いている。

 だからこんな人間みたいな真似事が、通例化してしまっている。中には「足なんて飾りです」だなんて、どこからか仕入れてきたか分からない言葉まで、一時流行り出す始末。


「ではライムに、昇格試験を受けて頂きます」

「えっと……『断る』って選択肢はないのですか?」

「ありません」


 バッサリと、切り捨てられた。


「……面倒くさいなぁ」

「今、何か言いましたか?」

「いえ、なーんにも言ってませーん」

「ライムには、人間界NO.108のランスール王国に降臨して、南部地方を牛耳る『漆黒の魔王』を倒し、人間の世界に平和を取り戻すことが試験内容となります」

「そ、そんなことできるわけないでしょぉぉ!」

「もちろんライム一人でその偉業を成し遂げろとは言ってませんよ。……後は師匠のディールに詳しい説明を聞いてください」


 丸投げだよ、この精霊議長


 大体こんな試験に何の意味があるんだろう、とライムは思う。


 人間を好きすぎるあまり、こんな階級制度まで作っちゃってさぁ。そりゃ私だって人間は好き。あれほど軟弱で自分勝手で、だけど愛おしい生き物なんて他に知らないから。私はこの【精霊界】で、人間の暮らしをのんびり見てるのが好きなのに……!


「さあ、ライムよ。人間の世界へと降臨するぞい」


 ディールがふわふわと寄ってきた。


 でも、まあ、人間の世界か。……一度は行ってみたかったんだよね。

 だけど、面倒臭いのは絶対イヤだぁ。



 その願いが叶わないことをのちにライムが知るまでに、そう時間は掛からなかった。

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