63話 乙女ゲーム
「ってなことがあってね....」
実技試験は、だいぶ手加減をした。あれについて、色々と苛立ちを覚えていたから手加減を失敗してしまうのではないかと、自分でも思っていた割にはあっさりと、うまく私の実力を隠蔽することが出来て特に、面白味もなくそのまま試験を終わらせることが出来てしまった。
もう1回ぐらい、何かが起きてしまうのではないか、なんてことをどこか思っていた私からしてみれば肩透かしもいいところであり......そのまま、本当に何事もなくこうやってアンゲロスの待つ宿にまで戻ってきた。
「リース様と同じ、日本生まれの転生者の方ですか....あの女神が関係しているのでしょうか?」
『中々にきな臭いですね』、なんてアンゲロスは言ってくるのだがぶっちゃけその通りだと全力で同意をするしかない。と、言うよりもきな臭いとかそこら辺のレベルを私の中ではすでにぶっちぎりで超越してしまっているわけなのだが....事情を知らにアンゲロスではきな臭いと思う程度が限界なのかもしれない。
しかし、本当に本格的にあのクソ女神の影が見えてきた.....女神の使者なんてものを持っている時点で、わかりきってはいたことなのだけど....冷静になってあれこれ考えてみれば本当にそうとしか思うことが出来ない。
アンゲロスも、あのクソ女神の影があるということには薄々気づいている様子。まぁ、転生或いは転移なんてものは神や私レベルの存在の介入がなければ起こりえないことなのだから.....当然といえば当然なのかもしれないけど。
「今のところは、聖女ちゃんが敵かどうかはわからない。けれど、リース・メテンソマという名前は知っていたからもしかしたらクソ女神に何かあれこれ言われているのかもしれないし......」
けれど、それはないと断言をすることが出来てしまうのが厄介だ。少なくとも、今の私の存在というのはあのクソ女神の奴にバレていないという自信があるわけで....それは、できるだけあのクソ女神から注目されないように動いていた、というのもあるのだが何よりも、現在は魂そのものに隠蔽をしかけているのだから。
あのクソ女神であったとしても、これを破るというのは至難の業である。決してできる存在がいないというわけではないのだが......少なくとも、私以外のレベルでは10年ほどは解析に時間がかかるであろう、そんな代物を用意している。
それに加えて.....七瀬楓としての経験。これが、一番の決定打になっているのだが、クソ女神が関わっているのは確実だとしても私に関してあれこれ、言われているわけがないと思えてしまう。
「乙女ゲーム、だよね.......」
異世界がモチーフの乙女ゲームとでもいったところなのだろうか。そう考えれば私に言い寄ってきていたやつらが美男まみれだったのにもどこか納得をすることが出来るわけだし、あのクソ野郎も顔だけは整っていることに納得できる。
認めたくはないけど。
ぜっったいに認めたくはないけど、今の世界というのはどこかの乙女ゲームの世界になっているのだろう。そして、当然ではあるけどそこに私の.....リース・メテンソマという存在も存在していると。
「乙女ゲーム、ですか?」
「うん。あっちにはそういうジャンルのゲームがあったの。私はやったことがないんだけど......」
やったことがないというよりかは、できなかったなんて言うのが正しいのかもしれないけど、少なくともあまりいい思い出はないのは確かなこと。最近は割とどうでもいいだなんて思うことはできているけど.....それでも思い出さない事には越したことはない。
まぁ、本当にどうでもいい事であると思っているわけであるのだけどね。
「成程。では、今の状況がその乙女ゲームというものに酷似していると?」
「確証があるわけじゃないから、多分の話にはなってくるけど....」
まず間違いがないと、そう断言を私の中ではすることが出来る。出来てしまう。
何かそれらしい証拠があるというわけでは、決してないのだが状況証拠がそうとしか言っていない。それに.....なんとなくで、私にもエヴァン・アティという名前に聞き覚えがある。
それが何なのか、具体的なことを思い出すことが出来るというわけではないけど.....少なくとも、こっちの世界で聞いたことがあるというものではなく、あっちの世界で。七瀬楓、として聞いたことがある物であると私の第六感がそうささやいている。
「.......そこら辺のことは私にはわかりませんので。リース様が思うままにされればよろしいかと」
「ありがとね。アンゲロス」
言われるまでもない。敵であるのならば、ボコボコにして二度と私たちの前に来ることがないように徹底的にちょうきょ....せんの....お話をするだけあるし、敵でないのならば無視をすればいいだけ。
あちらから、私たちの方にかかわってくるというのであればいくらでもやりようがあるというもの。そう、わかっているはずなのに....どこか不安が心の中から消えるということはなく....寧ろ、時間が経っていけば経っていくほど私の中の不安は大きくなる。
「エヴァン・アティ.....あなたは私にどんな因果を齎すの....」
光と闇。聖女という光と私という闇が、合わさるとき.....それが何を意味するのかはまだ分からない。だけど、きっとろくでもないことが起きてしまうのだと私はそう思うことしかできない。
憂鬱な気持ちになりながらも、どこか試験の結果を待ち望んでいる私がいるのだった。
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