61話 面倒事

「『深淵の死炎アビス・デス・フレア』」


 私の手からは、自然界では決して起きることのない緑色の炎が出される。確か、理論上は魔力を使えば使うだけ炎の温度や範囲が上がっていき、いつしか世界丸ごと燃やし尽くすというような究極魔法、みたいな感じだったのだが....私がその程度で許すことは消してない。

 『深淵の死炎アビス・デス・フレア』は確かにすごいと言えばすごいのだが、私からしてみればその程度といった感じである。アンゲロスだって使うことはできるし私の配下の魔物も何人か使うことのできるほどには普及しているようなもの。だから.....


「『淵源の滅炎バースデイ』」


 私にしか使うことのできない、固有魔法オリジナルマジック。『深淵の死炎アビス・デス・フレア』と同じように、自然界には起きることのない紫紺の炎が『深淵の死炎アビス・デス・フレア』と合体することで.....地獄の炎は完成する。

 本来ならば、クソ女神を殺すために用意していた私だけにしか使うことのできない融合魔法。温度とか、そういう概念を超越しておりいくらセーブをしているとはいえ普通の人間が近づくだけでもその存在は消滅をしてしまう。ま、禁忌の魔法程度に思ってくれれば大丈夫だろう。


「滅べ」


 クソみたいなやつが何かを言う前に私はその存在を滅ぼす。存在が滅びた後数分以内ならば私の力によって復活...というよりかは復元をさせることが出来るのでその存在が滅びたとしても特に問題があるといったわけではない。

 倫理観的には問題しかないのかもしれないけど、そんな綺麗ごとなんてものは既に日本のほうに置いてきているのだから。人殺しなんてものは今更だし、寧ろ復元させてあげるだけまだ温情がある方だと、私の中では勝手に思っているまである。


「『復元の奇跡アルセット』」


 今創り出した、新しい魔法。名づけ方が今までと結構系統が違っているのは....この魔法を使うことがないだろうという私の勝手な予想と、なんとなく少し凝っている名前を付けてみたいという咄嗟の思い付き。

 当然だが奇跡とか言いつつも普通の復元させるだけの呪文ではない。こんなクソ野郎を態々、なんのデメリットもなしに復活させるわけがないのだから、奇跡という名前の呪いを与えるだけのそんな魔法に仕上げている。


 で、なければ態々こんな奴のために新しい魔法を作るわけがない。大した労力にはならないとはいえもったいないと、私も人間である以上そう思ってしまうわけだから。


「さてさて....クソ王子、一度死んだ気分はどう?」


「あぁぁ.....ぃ....」


 選択次第によっては、死んだときの痛みや記憶をなくすなんてことは容易なのだがそんなものはつまらない。記憶や痛みをなくすということが出来るのならば当然そのぎゃくもできるというわけであり....私は態々、優しいことに自分自身が一度死んでいるという記憶を残してあげている。

 普通の人間ならば、一生をかけても経験することのできない貴重な記憶であるということには間違いがないのにどうしてここまで怖がられなければいけないのだろうか?......まぁ、冗談ではあるが。


 それにしても、話にならない。『淵源の滅炎バースデイ』に対する魂からの恐怖と、それを使った私に対する魂すらも越える絶対的なまでの恐怖。2つの恐怖が合わさってしまった結果こんなことになってしまっているということは容易に想像できるけど、本気でつまらないと思ってしまう。


「確かにちょっとは酷いことしたけどさ、自業自得だしそこまでなるのは酷くない?」


 普段ならば絶対に言わないような、理不尽な言動であるにもかかわらず今の私からはスラスラとそんな言葉がどんどんと出てきてしまう。それだけ怒っているということになるのかもしれないけど.....これでも、結構温厚な方である以上こいつがすべて悪い。

 だったら私はどうするのか?そんなもの....最初から選択肢なんてものは存在しないほどに決まっている。


「ぁぁ......ひぃ....?!」


「本当に、酷くない?」


 助けを求めるように、クソ野郎は周囲に視線を向けるわけなのだが誰もその視線にこたえることはな決してない。第二王子という手前誰かが助けようとしてもいいのかもしれないけど、残念なことにそんなことはあり得ない。

 勿論、そうなっている理由は私のせい以外何物でもないのは簡単に想像をすることが出来てしまうことだろう。


「ああ、助けを呼んでも意味はないよ?何せ....


 こいつが理解をすることが出来ているかはわからないけど、私はぽつぽつと続けていく。何もわからないと、そう物語っている表情が滑稽で仕方が無いから.....私はこいつに理解することが出来ないような話を続けているというわけだ。

 自分自身のことながら、中々に歪んでいることをやっていると、冷静な部分ではそんなことを思いつつその冷静な部分ですらやめようという思考が持ち得ていないのは私がどれだけ怒っているのかということがわかることだろう。


 お父様やお母様、お姉様といった家族のことは確かに好きではあるが様々な人生の中で貴族の醜さというものをさんざん見ているのだからそれを見てなお貴族を、王族のことを好きになるかといえば、私は首を縦に振ることは絶対にできない。

 そんな貴族だけじゃないということも、当然わかっているけど......それでも、好きになることはできない。特に、こういうやつのほうが貴族の娘や息子には多いのだから、私が嫌いな人間のタイプが集まるということは気持ち悪いとそんな風に思ってしまうわけなのだ。


「それじゃあ、オヤスミナサイ。『淵源の滅炎バースデイ』」


 今までは確かに滑稽であると思うことが出来たのかもしれないがこれ以上聞いてしまえば耳が腐ってしまうし、その表情を見続けるというのは目が腐ってしまうのだから再び『淵源の滅炎バースデイ』をぶつける。2回目ではあるが『淵源の滅炎バースデイ』に抵抗することが出来るはずがない以上、結果はさっきと同じにしかならない。

 そのまま、『復元の奇跡アルセット』を流れ作業のように使うと今度は痛みた死んだ記憶というものをきれいさっぱり消す。それ以外にも色々、細工自体はしているけど......それが効果を表すのはまだではない為今は何も言わなくていいだろう。


 そう思うのと同時に、時間停止を解除する。多少の面倒ごとになってしまうのかもしれないけど.....今ので鬱憤はそこそこ晴らされている以上、穏便に済ますのもやぶさかではないのかもしれない。

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