60話 転生者

「知りません。ここでは貴族の干渉は少ないと聞いているのですがそれはどうなんですか?」


「俺は第二王子だ。それくらい何とでもなるさ」


 うーん...爽やかスマイルだけど私にとってはウザいとしか思えない。こいつ燃やし尽くしてもいいだろうか?いやまぁここでは人が多すぎるので絶対にしないのだがそれでもイライラはどんどんと積もっていく。

 というか周りがうるさすぎる。何でこんな奴に黄色い悲鳴を上げるのだろうか?確かにイケメンと言えばイケメンではあるのだが言動は本当に気持ち悪い。それに気づけないのだろうか?


「あのぉ....ラグナ様。その人も困っているでしょうし...その辺でやめた方がいいのでは.....?」


 こいつの事をどうするべきか。

 私がそれを悩んでいるとそんな女の子の声が聞こえてくる。声の方向に向くとかわいらしい容姿....それも乙女ゲームの主人公みたいな完璧に整っている容姿をしている美少女がいた。

 軽く鑑定を行ってみるのだが驚くことにこの少女、聖女の称号を持っている。私と同じ聖女の称号。まぁその少女の方は私と違って現役の聖女なのだろうが....


「おお。エヴァンか」


 エヴァンという少女マジでナイス。誰だかわからないけどあと数秒遅かったからプッツンしてこのバカ王子をボコボコにしていたと思うので本当にナイスである。証拠無しで殺すことぐらい容易なので私としてはプッツンしても一向にかまわなかったのだが....

 それでも、王子を殺るのは問題にしかならないような事ではあるし中々に厄介としか思うことが出来ないような、そんなことになってしまっていた。


「それにしてもリース・メテンソマが居ない.....シナリオ通りならもう出会っているはずなのに.....」


「.....はい?」


 聞いてはいけない....というか聞こえたくないようなことが聞こえてきてしまった。私の貴族としての名前を言っており、シナリオという言葉も言っている。

 私の名前?シナリオ?え、マジでどういうことなのか意味が分からないんだけど?

 いや、分かりたくはなかったけどなんとなくでわかって入る。けれどそれは私にとって到底信じれることではないので未だに困惑をしてしまっている。だって、シナリオという事はそれすなわち私が何かの創作物に出ている。そう推察することが出来てしまう。

 いや、何もおかしくはない。私だってこの世の全てを理解しているわけではないのでそんなことが起きていてもおかしくはない。それこそあっちでは妄想、ファンタジーだった魔法があるのだからそう考えてしまっては今更なのだろう。


「......一応、一応ね」


 ただその単語を聞いてしまっては凄い気になってしまったので小さい声でそう呟くと私は鑑定の精度を上げてより深く探ってみる。

 私が持っている異世界人や異世界から転生した人の持っている転生者というような称号は普通の鑑定では見る事が出来ない。というかそれこそこの世界にある魔法全てでも見る事の出来ない程の称号なのだがそんなの私には関係ない。万物鑑定と万物超越の合わせ技によってそんなの知らんとばかりに私は見る事が出来るのだ。

 その場合個人情報も全部見れてしまうので本当に偶にしかしない行動なのだが今回はそれをする。ただ、個人情報を知りたいというわけではないのでそこら辺は....極力見ないようにしておけば大丈夫だとは思いたい。


「やっぱり...転生者だ....」


「何か仰りましたか.....?」


 やはりというか案の定というか、この少女は転生者だった。まぁ、これで転生者ではないと言われた方が逆に驚きなのでそこまで驚くようなことではないのだが...それでも思わず転生者という言葉を口にしてしまう。

 聞かれてしまっていたら困るので少女が私に聞き返してきたときは聞こえてしまっていたのかと内心ビビってしまったのだがどうやらそのようではないので一先ずは安心である。それでも疑問を持たれてしまっているとは思うのでそれをどうやって誤魔化すのか、と言う問題はあるのだけど...

 それでも直接聞かれるよりかは圧倒的に楽な事なのであまり気にしないでおこう。幸いにも私には考える時間何ていくらでも作ることが出来るわけではあるし。


「いえ。ちょっとした独り言なので大丈夫ですよ」


 微笑みながら無難にそう返す。ちょっとした独り言という部分は合っているのでまるっきりウソを言っているというわけではない。というか本当の事しか言っていなかったりするので罪悪感を感じる必要はないはずなのに....何でこんな罪悪感を感じるんだろう....


「チッ、しけた女だ...」


 ニチャァ、といった感じ(私主観)の笑みを浮かべていた王子なのだが私が彼に靡かないということを理解するとめんどくさい、といったようなゴミを見るような目を私に向けてくると同時に、私に聞こえないようにといった感じで失礼なことを小さく呟く。

 だが、残念なことにその言葉は筒抜けであり私にばっちりと聞こえている。マジでイラつくし、完全な言いがかりみたいな感じになっているのだが....取りあえず我慢である、としか言いようがない。だけど....


「テメェ....今なんて言った?」


 まぁ、私が我慢できるわけないよね、ということで。自分でもダメだということは分かって言うのだが思わず、この王子クズに対して怒りを燃やすのだった。

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