59話 試験は簡単

「はぁ....緊張する....」


「リース様でも緊張することはあるんですね?」


 そりゃあ私だって人間なんだし、緊張位するよ!そう思いかけたのだが、それでもハクオウの言葉で緊張が少し解けたような気がするのでそれは言葉に出さなくてもいいだろう。

 それを言うと何か変な空気になるような気がしてたまらないのも理由の一つである。実際は面倒くさいだけとも言うのだが...


「リース様はどのグループで受けるんですか?」


「私はGグループみたいだし、ハクオウとは違うね」


 受験する人がかなり多いためなのかグループに分かれており、私はG、ハクオウはIとグループが違うのでここでハクオウとは一旦別れる必要がある。

 尤も分かれると言っても同じ学校内でいるので別れると言ってもその気になれば会える距離にいるのだが....


「そうですか....それではリース様も頑張ってくださいね」


「ハクオウも頑張るのよ?」


 私が何かをやらかすというのは多分きっと恐らくないと思うのでハクオウの方が私としては心配である。

 まぁ、ハクオウもハクオウで同じような事を考えているのだとは思うのだがそれは気にしないでいいだろう。そんなことよりも今は、目の前の受験に集中することの方が大事だ。


「そしたらいっちょ頑張りますか!」


 気合は十分であるし、全力で頑張ってみますか。


────────────────────


「ってな感じに思ってたんですけど....」


 受験を受ける前は滅茶苦茶気合を入れていたのだがいざ受けてみるとそんなことを呟いてしまうくらいには簡単すぎた。

 いや、普通に受ければ難しいのかもしれないのだが全力で、脳でフル回転して全てを暗記してしまった私にとっては簡単すぎる問題ばかりなのだ。


「どうしようこれ....」


 試験時間はまだまだ残っている。そして私はすでに見直しも終わらせてしまっている。

 そう、本当に暇な状態になってしまっているのだ。

 五教科分もあれば流石にこんなことには陥らないだろうと勝手な予想をしていたのだがそれは大きな間違いであったらしい。五教科分あっても結局はこのような事態に陥ってしまったのだ。


「(もうこれ、暇すぎるし...新しい魔法でも創りますか....)」


 流石にこの時間を何か別の事に使わないともったいないので、頭の中にふと思いついた魔法創作を使わないで新しい魔法を作るというのを開始する。

 既存の魔法を組み込んで、新しい魔法を創るのは頭の体操になるのでこういう暇な時間にはぴったりなのである。

 シャーペンを全力で紙に走らせて、新しい魔法術式を組み立てていく。

 と言っても魔法創作によって魔法は創り出す事が出来るし、たまにいる固有魔法オリジナルマジックと呼ばれる個人の魔法も一度見れば魔法創作で使えるようになるので魔法術式を組み立てるよりも創った方が早いのだが....


「そこまで。筆記用具を手から離してください」


 と、そうこうしているうちに試験時間が過ぎてしまった。もう少しで完成するというところまで行っていたので惜しいと思ったのだがそれでも今創っている魔法は割とどうでもいいような魔法なので後で創ればいいとも思ってしまう。

 魔法術式を隠蔽魔法で紙の上から消すと私はそのままその紙を試験官に私た。


「んぁぁぁ....あとは魔法と剣術.....」


 魔法術式を創ることに集中していたとはいえかなり暇な時間だったので思わず欠伸が出てしまう。そして筆記試験が終わった今残りの科目は魔法と剣術になっており、どちらとも私の得意分野....っていうか得意に決まっているので問題はないだろう。

 懸念点を上げるとすれば制御を誤ってやりすぎないか、という一点のみ。それ以外に問題は無いのだがその一点が重要な問題となっている。

 下手に制御を失敗してしまい採点する事が出来ない....と言う事になってしまうという可能性があるのでそれは絶対にやめておきたい。


「でも時間があるのか.....」


 しかし魔法も剣術も始まるのにはまだ時間がある。他の受験生を見てみるとは魔法詠唱の練習や剣の手入れなど色々としているのだが私にはそれが必要ない。

 剣は現世と幽世を常に手入れして最高の状態にしてあるし、魔法に関しては詠唱無しで発動することが可能なのでこれも練習する必要が無いという風になってしまっているのだ。


「ハクオウと合流....が一番だよね....」


 そんな中で思いついたのがハクオウと合流するという選択肢。現実的にこれくらいしかできないと思うので普通にこれでいいだろう。後はまぁ、アンゲロスに会うくらいだが下手に会って知らない人に見られてしまっては色々な意味で私が終わってしまうかもしれないのでこの考えは絶対に却下である。


「さてハクオウは何処にいるのか....」


 そう言うと私は脳内にこの学園のマップを展開する。

 前に来た時にこの学園のマップを脳内に完全に記憶させていたのでこういうことが可能な事である。そしてそのままハクオウの持っている魔力をマップ上に映し出す。


「ここは....訓練場かしら?」


 私のマップに映し出された場所はこの学園にある訓練場。恐らくだがそこで軽く運動でもしているのだろう。

 予定表を確認するとハクオウのグループはもう少しで剣術の試験があるので私の考えで殆ど間違いはないと思う....とまぁそんなことは置いといてハクオウがもう少しで始まりとなるとどうしたものか.....


「ねぇ君。確かさっきの試験中かなり余裕あった子だよね?」


「あ、そういうの結構ですので」


 色々と考えていた私にちゃらちゃらした緑髪の男が話しかけてくる。多分ナンパだろう。それ以外考えることはできない。

 そしてこの緑髪も一応イケメンではあるのだが私の好みは可愛い女の子で鬱陶しいと思うだけ。だから不機嫌そうな表情を浮かべて遠まわしなのだが関わるなというサインを出す。


「まぁまぁ。それに君見たところ平民でしょ?王子・・の俺に逆らってもいいのかな?」


 またまためんどくさいことに巻き込まれそうである...

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