56話 光と闇
「ハァァァ?」
現在私は、何もない、常人が入ればすぐに発狂してしまいそうなほど本当に何もない無の空間で目の前の男を拷問にかけている。まぁ、男と言ってもすでにそれは異形の形になっているので生物かどうかも怪しいんだけどね。
顔がボロボロになって四肢は無くなって、臓器はバラバラに飛び出ている。
先程は生物かどうか怪しいといったが訂正しよう。その姿はもはや生物ではない何かに変わってしまっている。
正直に言うとここまでやるつもりはなかったのだがやってしまったことはやってしまったので諦めよう。
「他の公爵家がうちを邪魔になって消そうとしたって.....」
正直呆れることしかできない。
異形になったソレなのだが声だけはちゃんと出せるようにしていたので誰に頼まれたかそれを聞き出した。
そしてその結果が先程の私の言葉なのだが正直馬鹿すぎる。クソみたいな理由で他の公爵家が私達のことを狙ったようだ。
「し、知っていることは話した!お、俺を解放....」
「するわけ無いでしょ?それじゃあサヨウナラ」
できれば解放してあげたかったのだがあんな異形の姿になってしまっては何もすることはできない。
治そうと思えば治せるのだがそれを神に見つかってしまうのかなり面倒くさいことになってしまうので何もできないのだ。こういう法則を捻じ曲げて行う行為はそれなりの代償があるのだがそれを私は無視したた為見つかればかなりの大小が必要となる事だろう。別に滅ぼせるけど。
「肉塊にしてしまったのは私の責任だしね。流石にあなたに慈悲を与えてあげる」
先ほど合ったソレをあんなおぞましい肉塊にするつもりなど毛頭なかったのだがそれでもしてしまったものはしてしまったのである。だからこそ私はソレを殺す瞬間にある魔法をかける。
これは私にしては珍しい敵対者への慈悲であった。
「創作魔法:
創作魔法:『
これにより、異形の存在と化したソレは正しく輪廻の環の中に戻る。
そのことを確認できると私は何もない1人だけの無の空間で座る。1人だけの発狂しそうな空間なのだが既に私はこんなこと慣れっこなので特に気にしない。
というかここは思考をまとめるのにちょうどいい場所であるのでむしろ頻繁に活用しているまである。
「現在この国にある公爵家は4つ、その中で最も大きな権力を持っているのが私の家...これだけでも十分狙われる可能性はあると思ってたけどまさか他の公爵家から狙われるとはね....」
私の家は王族を除いた場合この国で一番の権力を持っている。
故に色々な貴族から恨まれているとは思ったのだが、まさか同格の公爵家から恨まれていたのは完全に予想外だった。
私が得た情報は公爵家から依頼されていたとだけしかなかったのだが、恐らくは私の家以外の公爵家すべてが関わっていると考えるのが妥当だろう。
なにせ人数が多すぎる。そして全員がそれぞれ別の第三者を介入していたのでこれは確実に何人かの黒幕がいる。そして情報をもとに推測すると3つの公爵家が私の家に恨みを持っている。そう考えるのが妥当である。
「だけど3つも同時に恨みを買う.....?」
高速で仮説を組み立てていた私の口からそんなことが漏れる。
誰もいない無の空間に私の声がただただ響き渡るがそれを私が気にすることはない。むしろ響いている間も高速で仮説を立てているくらいだ。
「いや、何者かから扇動を受けていると考える方がまだ納得できるけど....」
そう、誰かから3つの公爵家が扇動を受けているのならばまだ話に納得をできる。
だけど、扇動する理由....国内で最大の権力を持っている公爵家を無くそうとする理由が私にはわからないのである。
それこそ普通に考えれば、私の家を無くせばかなりの人間が被害を受けることになってしまうので消すメリットないどころかデメリットしかないのだ。
「いや、もしもこれに魔族が....クソ女神が関わっていたら?」
最近は忘れていたのだがこの世界には汚物を凝縮した性格をしているクソ女神がいる。そいつならば人間を道具としか見ていないので私の家を無くそうとしている行動に納得が出来るし、魔族を使うという方法も恐らくとる事が出来るのでこの先の未来も見えてくる。
「だけど、クソ女神が私の家を無くそうとする理由は.....?」
行動自体にはクソ女神が関わっているという理由ならば理解する事が出来るのだが、クソ女神が私の家を無くそうとする理由がわからない。
あいつがたかが1つの信者でもない国の公爵家に興味を持つなど到底思う事が出来ないからである。
「まぁ、いいわ。こんなことを気にしても何かになるわけでもないしね.....」
本当はかなり気になるのだがそれでも今考えるようなことではないというのは分かっているので思考をすぐに切り替える。
「無の空間の中だと、時間の流れは無くなるし、お姉様はまだアンゲロスと合流していないかな?」
無の空間の中には時間の流れなど存在しない。故に私がこんな風にかなり長考できていたというわけである。
しかし、時間の流れがないからまだここにいることはできるので私が動く気配はまったくない。
「はぁ.....」
その場から動くことはなく、私は溜息をつく。
正直言うと全てがめんどくさい。今すぐにでも、残りの公爵家すべてを壊したい。
そんな破壊衝動の塊のような私が心の中には存在している。
「無限の禁術。これを使った意味なんてないのかな?」
クソ女神を倒すために命を懸けて使った『無限の禁術』。これで、クソ女神を倒せると思ったのに、私は倒されてクソ女神はまだ推測の段階なのだがこうやって私に迷惑をかけてくる。
いや、強さの一点だけを見れば強くなったのは間違いないし意味はあるのだろう。
しかし結果だけを見るならば、無限となったすべてのステータスは自分で無理やり抑えている。
果たしてこれに意味があるのか?そんな問をされたら私はまず間違いなくNOと答えるだろう。
「でも、全ては自業自得」
フラッシュバックする過去の記憶。それと同時に私の瞳の色は濁りきった汚い色に変化し、それと同時にハイライトがなくなる。
「そう、全ては私の責任」
これが、私の本当の性格。
誰にも見せたくない、闇の部分。
濁りきった瞳の色は、そのまま私の心情を表現している。アンゲロスにも、親にも、誰にも見せたことのない私の抱えている闇。
愚かで、少しばかり周りよりも賢いだけのちっぽけな人間。それが私という存在の大半を占めている。
仲間を犠牲にして、倒した魔王。しかしそれは全て茶番であり、それからただひたすらに演じていた偽の性格。それを維持するのも面倒になっていた。
「全てを壊す。過去の因縁を全て壊す」
こうなってしまったのは自業自得であることはわかっている。だからこそ、私が全てを終わらせる。
そんな私の小さくも大きな決意は、何もない無い空間にただ響くだけだった....
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