40話 馬鹿は制裁

「ずびばぜん゙れ゙じだぁ゙ぁ゙ぁ゙」


「うるさい。黙ってくれない?」


 はい。やらかしてしまいました。確かに私はこいつにむかつきましたがここまでやる予定では無かったのです。

 と、そんな言い訳を心の中で述べるが意味などはない。やってしまったことは既にやってしまったことなので過去に遡る以外変える方法はない。尤もこんな奴の為に過去に戻るわけはないのだが....

 なにがあったのか?それは少し前、この男との戦いのときに遡る....まぁ、いうほどさかのぼるわけではないけど。


────────────────────


「死ねや!」


「遅い」


 怒り狂ったように私に攻撃を開始する。

 攻撃をしてきたのだだ、遅い。思考加速するまでもなく遅すぎる攻撃が出てきたことに思わず驚いてしまった。

 少なくとももう少し早いと思っていた私は余りの遅さに硬直してしまう。勿論コンマ何秒くらいしか硬直はしていないのだが私が硬直してしまうこと自体が無いので逆にこいつの事を褒めていいと思う。


「来なさい。虚無ラグナロク


 だけど容赦などはしない。私は昔から使っていて今はどこにあるかもわからない薙刀の虚無ラグナロク。その名前をも呼ぶと所有者である私の声に反応するよう空間に歪みが生じてその中から出てくる。

 虚無ラグナロクとか西洋っぽい名前をしているがこれはれっきとした薙刀である。そこを気にしてはいけない。

 まぁ、名付けの親は私なので私のせいなのだけど....


「今謝ればまだ許すわよ?」


 それは私のほんの僅かだけ残っている最後の理性での警告。本当に殺してしまう可能性があるのであまり戦いたくはない。

 私が殺すときはこの前の宿での出来事みたいに緊急性の高いときだけ(?)なので今は違う。まぁ、色々言っているが要するに殺したくないだけである。


「それは俺様の言う事なんだよ!!」


 私の心からの警告にもこいつは怒り、また目が血走っている。本当に馬鹿すぎる....

 人間はちゃんとした思考回路を持っているはずなのだがこいつは持っていないのだろうか?そう思ってしまうほどに馬鹿すぎる....


「夜桜──古龍華──」


 私が薙刀を振り回すとその軌道上に桜の花が咲く。それだけではなく桜の花は意思を持つように次第に龍の形をかたどり、完全なる桜の龍へと変化する。

 『夜桜──古龍華──』は桜の花びらが龍をかたどりほとんどの生命体を殺せる私が独学で生み出した薙刀の技の中で最強なのだが今回は一応手加減をしている為死ぬことは無いと思う。それでも龍の形をかたどっているのは確かな事なのでそこそこに恐怖を与えることはできると思う。


「くそっ、なんだその幻術は?!」


 あ、事実を認めたくないみたいで私の夜桜──古龍華──を幻術扱いしている....

 これは幻術でも何でもなくただの技術の1つなので別にそういうものではない。要するにこいつが現実逃避をしているだけである。

 桜の龍は私の意思で動くためギルド内の物を壊さないように慎重に操作をしながらこいつだけを喰らうように精密な操作を施す。目の前に龍が迫ってくる....それだけで恐怖ものだと思うのだが今の私はそれに加えて魔力が駄々洩れの状態になってしまっている。

 今は調子に乗っているようで私の魔力に気づいていないようだがそれに気づいた瞬間どうなるのか....それがあまりにも未知数なのでどうなるのか本当にわからなくて怖すぎる.....


「幻術じゃないわよ。これは私の技術」


 ほかの人から見ればどうでもいい事に見えるようなことなのだが私の努力がそこら辺の幻術と一緒にされるのは本当に嫌なのでそこだけは訂正しようとする。

 しかし龍の姿に怯えているアルノードに私の言葉が届くことは無かった。というか目には涙が浮かんでいるし何なら恐怖からか失禁もしているし正直に言って気持ち悪い....


「すみませーん、これどうしますか?」


「え、あっ」


 気持ち悪いのだが少なくともこれ以上戦うような様子にはなっているので一先ず受付の女性にアルノードをどうするのかを聞いてみる。もうスッキリしたのでこの後こいつがどうなっても私はどうでもいい。

 いつもなら制裁をしているのだが今回はこれで満足しているのが一番の原因である。


────────────────────


 とまぁ、こんなことがあり現在私はアルノードに全力で謝罪を受けているわけなのだが....とにかくウザすぎる。

 もう私はこいつの無様な姿を見て十分満足をしているのでこれ以上気持ち悪い光景を見たくはない。それに存在自体が邪魔なので早く消えてほしいとまで思っている。


「ってか邪魔。早く消えて」


 本当に邪魔なので私はストレートに今の気持ちを伝えることにした。

 こんな自分が最強と思い上がっていた傲慢な馬鹿を長時間見ているのはそれだけで精神的な苦痛になるので請求できるのだろうか?まぁ、そんな意味不明で理不尽な事を割と本気で考えている私なのだがもう既にアルノードは私の思考の90%くらいから消え去っている。

 それだけこいつが私にとって価値のないと言う事になるのだが今はあまり関係ない事だろう。それにこのことを伝えるのは少しかわいそうだと思うし....


「何だ?この騒ぎは」


 そんなことを思っていると騒ぎを聞きつけたのかこのギルドのギルドマスターらしき人が出てくる。うん、確実に出てくるのが遅いよね?

 まぁ、私だったし確かに一瞬で勝負はついたんだけどそれでもこうやって来るのは遅すぎると思う....

 そんな風に現実逃避している私だったが確実に厄介ごとが怒る予感がしてたまらない.....

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