38話 王都に到着

 あれから特に何事もなく馬車での旅は続き何事もなく王都まで着いた。

 なにか起こるかもと構えていた私にとっては期待外れだったのだがまぁ、何も起きないことより良いことはないので良しとしよう。本当のことを言えばトラブルが起きてほしかったのだが....


「ありがとうございました」


 アンゲロスが御者に向けて挨拶をしているのを横目に私は何をするかを思案している。正直に行ってアーゼさんと合流するまでの間にすることがないのが本音である。

 普通ならば学園の入試に向けて勉強やらなんやらをするべきなんだろうが私は学園側からの招待生となっているので入試が無い可能性が高い。

 それにもしも入試があったとしても実技試験に関しては大丈夫だと思うし筆記試験は貴族の令嬢として最低限のことは教わっている。そんな状態だからやることが思いつかないのだ。


「ハクオウはこれからどうするの?」


「俺は図書館を回って勉強しようと思います」


 ハクオウは私とは違ってちゃんと入試を受けて入るので勉強をするらしい。まぁ、悪魔公デーモンロードだし魔法に関しては問題はなく、剣術に関しても元から高い上に私が鍛錬をつけているので大丈夫だろう。

 心配があるとすればそれこそ筆記だけなので問題はない。



「アンゲロスはこの後どうするの?」


「私はとりあえず情報網の確保ですかね。そっちの方が何かと役に立つ気がしますし」


 アンゲロスの方は王都での情報網確保を優先して行うらしい。正直予想の範囲内なのだがそれでも一緒に過ごす人がいないのは寂しい物である。

 これで本格的に何をするのか目途が立たなくなってきた。アンゲロスかトウハクがいるならまだ何とかなったのだが....


「そ、そうなのね....それじゃあ私は散策でもしてくる....」


 取り合えず全力で頭をフル回転させて出てきた答えがこれである。うん、本当にベタすぎる....


「わかりました。時間までにちゃんと宿の方まで戻ってきてくださいよ?」


「あーうん...任せて頂戴!」


 正直時間までに宿に行ける自信がないが今はこう返事する以外にないだろう。それにいざとなればアンゲロスのいる場所まで一瞬で行く事が出来るので大丈夫...なはず。

 私もお金は一応持っているので最悪自分で宿をとればなんとかなるはずだ。


「心配ですね....」


「大丈夫だから安心しなさい!」


 私の力を持ってすれば迷子何てならないと思うし大丈夫だと思う。そんな根拠のない自身が私の中にどんどんとわいてくる。根拠などは一切存在しない。

 アンゲロスもそれを理解しているのか大分不安そうな顔で私の事を見ている。少しは信用をしてほしい物である。


「まぁ、それじゃあ行ってくるね!」


「気を付けてくださいよ!」


 アンゲロスが我が親に見えてしまう私はヤバいと思う....いやまぁ、普段やってくれていることは本当に母親と変わらないことなのだがそれでも私の方が精神年齢年上なのに母親に見えるのはヤバいと思う。

 姉妹のように育ったはずなのにどこでこんなに分かれてしまったのだろうか....?

 そんなことを考えていると虚しくなってしまったので私はおもむろに首を振るとその思考を振り払う。


「先ずは散策だよね...冒険者ギルドの位置も覚えておかないとダメだし...」


 今のところアーゼさんと今度合流予定なので冒険者ギルドの場所を把握しておくことは大事である。まぁ、どちらかといえばそれくらいしかやることがないというのが本音なのだが...


「しっかし流石は王都。アルケーの町よりも治安がいいわね....」


 ふと思ったのはやはり王都というだけあり治安がかなり良い。それだけではなく広範囲の結界も張られたりしているのでそれだけ治安に力を注いでいるのだろう。

 結界に関してはそこそこの力を持つものが現れれば壊れそうな気がするのだが....


「ま、この時代にはこれを壊せる存在なんていないのかしらね?」


 軽く脳内でシュミレーションしてみたのだが結果はやはり私がこの結界を壊すというものになった。アンゲロスでも同じ結果になったのだがこの時代には私達みたいな強者はいないので問題がないのだろう。

 しかしハクオウとトウハクでシュミレーションした結果も壊せたので攻めてきていないというのが正しいのだろうか?

 まぁ、どっちだろうと私にはあんまり関係のない話なのでどうでもいいのだが....


「ま、のびのびと楽しく過ごしていきますか」


 入試まではまだまだ時間はあるのでゆっくりと考えながら過ごしていけばいいのだろう。

 時間を逆流させることだってできるので時間だけは沢山ある。だから考える時間は無駄に多いのだ。


「到着っと」


 そんなこんな考えているうちにいつの間にか王都の冒険者ギルドについていた。流石に色々標識があって尚且つ頭の中に地図を叩きこんでいたので迷子することは無かった。

 私だって毎回毎回迷子になるわけではないのだ。迷子になる確率自体はめちゃくちゃ高いのだが.....

 とまぁ、そんなことは置いといて私の体質的にトラブルが起きる気がしない冒険者ギルドの扉に手を当てる....

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