33話 馬車の中で

「あのぉ....早めに出ても大丈夫ですけど....?」


「後少し待ってください」


 アンゲロスの尻尾でぐるぐる巻きにされて空を飛んでいる私の目と耳にまだ出発前にも関わらず出発しようとしている馬車の御者とそれを止めているはくおうの姿があった。

 定時より早く出発するのはどうかと思うが御者にもなにか事情がある....のかも知れないので気にしないでおこう。それにハクオウが止めてくれているので私にはなにか実害があるわけではないし....


「アンゲロス、このへんで降りてくれない?」


 私の超視力があったのでハクオウの様子がすぐ近くに見えたのだが実際はまだ1キロほど離れている地点でを飛んでいる。御者が魔族を受け入れない可能性が高いのでアンゲロスの羽や尻尾を見せるわけにはいかない。だから少し離れた場所で降りる必要があるのだ。

 私とアンゲロスの俊敏の値を考えれば1キロなんてすぐに到着するような距離なので問題はない。強いて問題を上げるとすれば周りに砂埃が舞って服が汚れるかもしれないがそんなのは浄化カサロでどうとでもできる些細な問題なので正直関係はない。


「すみません!乗ります!」


 私とアンゲロスが馬車の前に着いたのは出発予定時刻の2分前、結構余裕をもっていると思う。

 さっきまで私の準備が終わっていなかったことを考えればなおさらだ。一応アンゲロスが早く飛べば1分もかからないのだが怖いのでそれはやめて比較的ゆっくり飛んでもらったため家からここに着くまで少し時間がかかってしまった。

 それでも2分の余裕があることに変わりはないのだが....


「アンゲロス殿、お疲れ様です」


「もうだいぶ慣れましたよ。リース様が寝坊することはいつも通りなので....」


 酷いいいようなのだが寝坊するのは割と日常的になってしまっていたため反論することはできない。むしろアンゲロスに対して色々と迷惑をかけてしまっていることを理解しているので胸が痛くなるまである。


「もう出発しても大丈夫ですか?」


「はい。お願いします」


 時間も丁度になりトウハクは留守番の為これ以上馬車に乗る人はいない....と思う。というかこの馬車はペインさんが用意してくれえた貸し切り馬車なのでこの馬車に乗る人など私達以外にはいないのだが....

 ともかく私とアンゲロス、そして元々乗っていたハクオウ。全員が揃ったのでようやく王都に向けて出発することになった。


────────────────────


「うぇっぷ、吐きそう....」


「酔い止めの薬飲みますか?」


「ありがと...アンゲロス....」


 時間通りに出発できたのは良かったのだが私の予想通りに馬車酔いを起こしてしまった。

 私はいつも空を飛ぶか走るかのどちらかで移動しているので馬車などの乗り物に乗ることはない。その上元々酔いやすい体質ということもあり馬車に乗るときは確実によってしまう。

 馬車で酔わないアンゲロスと、こんな振動の中で堂々と寝ることのできるハクオウは本当に尊敬できる......私が弱いだけかもしれないが


「それで、どうするんですか?王都に着いた後は」


「一応はアンゲロスと同じように観光をしようかなっては考えているよ?後はアーゼさんも少ししたら依頼で王都に来るみたいだしアーゼさんとの合流もかな?」


 アンゲロスが急いでいた理由は王都を観光する時間を確保したかったからだ。入学試験自体はもう少し後なのだが後に行くと観光の時間を十分に取れない可能性が出てくるので急いでいた。

 それは私も同じだったのだが根本的な理由はアンゲロスとはまた違う。

 これは一昨日聞いたのだがアーゼさんも指名依頼というもので暫く王都に滞在するらしくアーゼさんと合流するためにと事前知識は必要だと思っている。


「またあの女狐ですか....いい加減私のモノになってくれませんか?」


「ヤンデレガチレズストーカーのモノになんてならないでしょ!そもそも私が主でアンゲロスが配下でしょうが....」


 たまに見せるアンゲロスのヤンデレガチレズストーカーの姿は見るだけでも背筋が凍ってしまうほど怖い。生物としての本能が食われるかもしれなきという状況に恐怖しているのだ。

 淫魔サキュバスの血を引いており、とても美人なアンゲロスの誘惑を耐えることのできる存在はそうそう居ないと思う。姉妹として育ったからそういう目で見ていないだけでありこれがもしも他人だったら私だって確実に堕ちいてる。そう思えるほどの美貌をアンゲロスは持っている。

 そんな美貌の持ち主が私を好いてくれていることは嬉しいのだが私の中でのアンゲロスは優しいお姉ちゃんなので好きだがそれはlikeの話でありloveではない。何よりもたまに見せるヤンデレガチレズストーカーとしての一面が私はあまり好きではない。


「主従関係が逆転....物凄く甘美の響きじゃないですか....」


「あっ、これは駄目だ」


 御者に聞かれたらまずいかなーと一応会話を適当なものにすり替える創作魔法、『会話変換偽装シノミリアミメーシス』を私とアンゲロスにかけていたのだが本当にかけていてよかったと思う。何故ならば今アンゲロスが恍惚とした表情でヤバいことを堂々と言い張ったからだ。

 主従関係が逆転は今でも起こっていることなのだがきっとアンゲロスが言っている意味は私の考えている主従関係逆転とは違うかもしれない。その証拠に興奮しているのか尻尾が出ているし淫魔サキュバスのフェロモンがとてつもなく出ている。そして何よりもアンゲロスのその手にはどこから取り出したのか犬に着けるような首輪リードが握られている。


「リース様、少しだけでいいので私に飼われてみませんか....?」


「絶対に嫌!」


 魔力量を滅茶苦茶増量した創作魔法『結界拘束ペリオリズモス』でアンゲロスの動きを止める。これ以上は私の貞操が危ない気がする....というか確実に危ないので仕方のない事だ。

 アンゲロスの事はlikeの意味では好きなのだがそれでも一番大切なので自分なのでここは心を鬼にするべきである。まぁ、ここでどんな会話をしても会話変換偽装シノミリアミメーシスで違和感のない会話に変換されているので私のピンチと私が心を鬼にしているのは誰にも気づかれないのだが.....

 とまぁ、こんな風に馬車の中で色々あったが最終的には結界拘束ペリオリズモスで拘束しているアンゲロスを横目に吐きそうなのを我慢しながら過ごす...という散々なものになってしまった.....

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