25話 説教

「で、住む人数が2人増えたと?」


「はい.....そのとおりでございます....」


 桃色の髪に翡翠色の瞳をしているお姫様のトウハクと銀髪に黒色の瞳をしている従者であるハクオウ。私の一緒に住む人数が増えたので最初の屋敷を買ってからアンゲロスに報告したのだが案の定怒られてしまった。

 これに関しては事後報告になってしまった私が全面的に悪いので素直に反省するとしよう。


「えっと....アンゲロス様ですよね?」


「ええ。確かあなたは.....」


「今の魔王の娘である桃白トウハクです」


 どうやらアンゲロスとシュカは顔見しりだったらしい。アンゲロスが逃亡者になったのは比較的最近だったみたいだしそこに違和感はない。まぁ、違和感を上げるとすればアンゲロスが少し嫌そうな表情を浮かべていることだが、きっと何かあっただけだろうし私が干渉するようなことではないだろう。

 というか私の予想通りに名前は漢字らしい....まぁ、この世界だとたびたび日本人とかが来る...というか私もそのうちの一人である──ので特に不自然というわけではないのだが.....魔王の娘が漢字とは予想外すぎた。

 

「俺は姫様の従者である白桜ハクオウと申します」


 そして従者の方も予想通りに漢字の名前だった。予想と言ってもこっちは江戸時代にいた侍のような恰好をしているので見ただけでわかる気がしていたのだが....


「私はリースよ。一応この国の貴族だけどちょっと理由があったこの名前になっているわ」


「知っているかもしれませんがアンゲロスです」

 

 そういえば自己紹介をしていなかったと思い出した私はトウハクとハクロウに向けて自己紹介をする。そしてそんな私に続くようにアンゲロスも逃亡犯として有名になっているのだが一応という形で自己紹介をしている。

 昔の配下が悪い意味で有名というのは少し...というか物凄く嫌な感じがするのだがそれは当たり前の感情だろう。誰しも自分と、その知り合いが悪いことで有名は嫌だと思うし....


「しかし今の魔王の娘ですか....」


「あはは....アンゲロス様には色々黙っていてすみませんでした.....」


「2人はどういう関係なのかしら?」


 さっきも言ったのだがアンゲロスとトウハクには何かしらの接点が合ったらしいのだが私にはどんなような関係があったのかは全く予想つかないのでそこは結構興味がある。

 ちなみに私の予想としてはアンゲロスが魔法の師匠とか考えているがどうなんだろう....


「リース様なら薄々気づいているかもしれませんがトウハクは私の弟子です。魔法だけではなく生活術なども色々教えこみましたが....」


「あ、やっぱり?この時代の魔族にしては魔力量が多いと思ったけどアンゲロスの弟子なら納得ね」


 どうやら私の予想は半分当たっていたが少し違っていたらしい。私の予想通りに魔法の師匠ではあったが魔法以外にも生活術や剣術、体術などを色々と教え込んでいたみたいである。

 アンゲロスは私にもいろいろと教えてくれるメイド兼教育係みたいな感じだったのでトウハクに教えていたことに関してはやっぱりな程度にしか思っていない。


「.....アンゲロス殿とリース殿は一体どんな関係なんですか?」


 今まで黙っていたハクオウだったがアンゲロスが私に対して『様』と付けて名前を呼んだため流石に私とアンゲロスがどんな関係か気になったらしい。というかどちからと言えばアンゲロスが私の事を様と呼んでも気にしていないトウハクの方がおかしいのか?

 これに関しては気にする人と気にしない人がいるような気がするので私が1人で考えるだけ無駄な気がするのだが少なくともトウハクの反応は確実におかしい....と思う。


「私はリース様の従者メイドです。それ以上でもそれ以下でもありません」


「まぁ、そういうことだね....」


 とはいっても私とアンゲロスの関係は昔は魔王とその配下。今は主と従者メイドなので、アンゲロスの説明は正しい。というかそれ以外に説明する方法がないというのが正しいような気がするのだが....


「そう....なんですね...」


「アンゲロス様ってメイドなんですか?!」


 うん、やっぱりトウハクが色々とずれている気がする。

 アンゲロスの事を疑うわけではないのだがなんというか....明らかに世間と色々とずれているし箱入りお姫様、という感じがする。アンゲロスが色々と教えたと言っているので大丈夫だとは思うのだが、色々と心配になってしまう。

 ハクオウもトウハクの言葉を聞いてまたかという表情で頭を抱えているのでトウハクのずれているような発言はいつもの事なのだろう。それはそれで本当に心配になってしまうのだが...


「ハクオウ....」


「リース殿わかってくれるんですね....」


 この一瞬だけで私とハクオウは互いに少しだけだけど理解できたような気がする。というかハクオウの苦労を一瞬で理解してしまった....

 それは私だけではなくアンゲロスも同じようでハクオウの方を向くと私と同じように頷いている。


「まぁ、トウハクの事は置いておきまして....リース様?少し別の部屋でお話しましょうか?」


「.....短くすみますか....?」


 話が結構逸れたような気がしたのだがアンゲロスは大事な事を忘れていなかったらしい。私の方向を向くと覚めたような、価値のない無機質の物を見るような目で、冷酷な笑みを浮かべて私に語り掛けてくる。

 一見すると優しいように見えるのだがその身からあふれ出ている謎の威圧感がとにかく怖い。


「それはリース様の反省次第ですね」


「アハハハハ.....すみませんでした!!」


 思わずスライディング土下座を決めてしまう私。この光景だけを見るならば私とアンゲロス、どちらが主なのか分からなくなってしまうだろう。

 実際私も色々とわからない。最近はこういうことが多いからもう私本当に主なのかな?と考えてしまう事が多々ある。それだけアンゲロスが怖いともいうのだが.....


「リース様の土下座はいいので早く立ってください。お話しますよ?」


「許してぇ.....」


 私の渾身のスライディング土下座だったのだが冷酷なアンゲロスには意味が全くなかった。ふとトウハクとハクオウの方向を見ると驚いたような表情で固まっていたため助けを望めるような状況ではない。

 そういうのがわかると私は素直にアンゲロスの言う通りに別の部屋に向かった。

 そしてこの後私は勝手に色々やらかしてしまったことをこってりと5時間ほど説教されたのだった.....

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