14話 力の片鱗

「リースちゃん、やっちゃいなさい!!」


「えっと....これ本当に私が勝っちゃってもいいんですか?」


 練習場に着いてすぐ、アーゼさんにそんなことを言われた。

 私としてはこれ以上ランクを上げたくないので負けるのが一番なのだが、アーゼさんにはアーゼさんなりの事情というものがあるのだろうか?そんなことは読心系統の魔法を使うか、過去を除くなりしないとわからないことなので深く詮索しないことにした。


「好きにしろ。まぁそんじゃ行くぞ、『火炎弾フレア・バレット』!」


「無詠唱....『火炎弾フレア・バレット』!」


 いきなり始まったギルドマスターペインとの模擬戦。どうやら無詠唱魔法は効率が悪いから世間一般で使われていないだけで使っている人がいる。となると何故アーゼさんが失われた技術と言ってのが気になってくるが、それは後で聞くことにしよう。なんかペインさんに私恨を抱えていそうだったのでペインさんが使えてアーゼさんが使えない無詠唱の事を私に教えたくなかった,,,,とかかな?

 それに『火炎弾フレア・バレット』という魔法は聞いたことなかったのだが、怪しまれないためにも一瞬だけ展開された術式を模倣して、私のオリジナル....もっと効率のいい術式に改造して使ってみた。改造したせいか、私の魔力が多いせいかどうかはわからないがペインさんの火炎弾フレア・バレットがオレンジ色の炎に対して私の火炎弾フレア・バレットは青い色へと変わっている。


「青い火炎弾フレア・バレットって何なんだよ....しかもさらっと無詠唱だし...」


「さぁ?私の魔力量が多いから変色したのかもしれませんね」


 そんな会話をしながらも私とペインさんの魔法の応戦はどんどん進んでいく。というかペインさんの見た目に反して剣術よりも魔法を使ってくるのに驚いた。正直に言うと2m近くあるガタイの良さを利用した戦法が来ると思っていたので一瞬動きが止まりそうになったのは内緒の話である。


「『雷撃槍サンダー・スピア』!」


「それなら....『水撃槍ウォーター・スピア』!!」


 『雷撃槍サンダー・スピア』という魔法の術式を組み替えて水の槍を私の手元に出現させる。出現した水の槍はペインさんの雷撃槍サンダー・スピアを纏い、強力になったのでそのままペインさんに向けて投擲をする。

 ペインさんも自分の攻撃がそのまま強化されて帰ってくるなんて思っていなかったのか、一瞬の驚いた表情を浮かべた。しかし驚いたのはほんの一瞬だけであり、次の瞬間には真顔に戻っていた。


「『魔法吸収アブソープション』」


 どう対処するのか。それを考えていたのだがペインさんの対処方法は私の予想とは異なる方法だった。

 一瞬ペインさんの手元が光ったと思うと私の放った雷を纏った水撃槍ウォーター・スピアは無くなっており、ペインさんの魔力が僅かに回復した。原因はおそらく『魔法吸収アブソープション』という魔法にあるのだろう。まぁ、魔法吸収アブソープション自体私が聞いたことのない新しい魔法なので事実はどうなのかしらないのだが.....


「『走力強化スピード・バースト』、『身体能力強化フィジカル・バースト』」


 『走力強化スピード・バースト』と『身体能力強化フィジカル・バースト』明らかに私の創作魔法である『走力強化トレホ・ブースト』、『身体能力強化ズィナミ・ブースト』と同系統な感じがプンプンする魔法を使ってきたのには本当に驚いてしまった。走力強化トレホ・ブースト身体能力強化ズィナミ・ブーストなどの強化系魔法は私が創った創作魔法であるため私のアドバンテージだと思っていたのだが、どうやら魔法は唯衰退しただけではなく新しい魔法も出来ているらしい。新しい魔法と言ってもすでに術式は模写してあるのでいつでも走力強化スピード・バースト身体能力強化フィジカル・バーストはいつでも使えるようになっているし魔改造だってすることが可能になっている。


「『絶対切断アブソリュート・エンド』!!」


 だけど新しい魔法が見れるのは楽しく、気持ちが昂ってしまった。だからこそ調子に乗って2万年前の基準で、上級上位の光魔法『絶対切断アブソリュート・エンド』を放ってしまった。そう、今世では『灼熱剣カーフシ・クシフォス』と同じく古代魔法に分類されている、使い手のいない魔法を使ってしまったのだ.....


「古代魔法だとッ!?」


「あっ....」


 今更自分が何をしでかしてしまったのかを理解してしまった。本当は理解なんてことはしたくなかったのだが、それでも重大な失態を犯してしまったことには変わりないので、理解するしかないだろう。

 そう考えると一気に顔が青ざめたような気がする。いやまぁ、この魔法を使ってしまった時点で色々と終わってしまっているのだが、それは今更だろう。


「はぁ....リースちゃん結局こうなっちゃうのね...」


 私とペインさんの戦いの様子を見入った様子で観戦していたアーゼさんが口をようやく開いたと思えば、私に対する罵倒ともとれるような発言をいきなりしてきた。いや、アーゼさんだから全くそういう意図はないのだろう。それは2日過ごしただけでもわかるくらいにアーゼさんが優しく、私みたいにお人好しであることが根拠に出た結論である。


「まぁ、いい。その話は決着がついたら教えてもらおう」


「そうですか....まぁいいですよ。夜桜──蒼炎繚乱──」


 ペインさん魔法で息を整え背中に背負っていた両手大剣グレートソードを手に取るが、なんかもういろいろとめんどくさくなってきた私は刀を一度鞘にしう。そして次の瞬間抜刀すると、蒼い炎を纏った桜の花弁が刀の周りに浮き出る。

 刹那.....花弁を発射すると心臓、胸骨、肋骨、肝臓、腎臓、膀胱の六つに当たり、私はそのまま刀の峰をペインさんの顔面にぶつける。人間の急所七つを同時に攻撃する凶悪な技なため特に耐えられることは無くそのまま気絶してしまった。

 

「『完全回復フル・ヒール』」


 私のランクがどうなるのかものすごく気になるし、それに加えて今はペインさんは気絶している。故に私が自重する意味はないので迷いなく上級上位の回復魔法『完全回復フル・ヒール』をペインさんに掛ける。

 前世でもこのレベルになると無詠唱でも詠唱有でも少し苦戦するレベルの魔法なのだがそれは今置いておこう。


「大丈夫ですか?一応『完全回復フル・ヒール』はかけましたけど完全とか言っている割に不十分な事もあるんで痛いところとかあったら教えてください」


 この完全回復フル・ヒールという魔法だが完全フルと言っている割にはすべてが回復するわけではないので名前と実際の効果が違うことになっている。真面目に名称詐欺な魔法である。でも使い勝手は結構いいから何も言えないのだが.....


「あ....あぁ....」


完全回復フル・ヒールって....確かそれも古代魔法の1つだし、リースちゃんって本当になにものなんでしょうね」


 呆然自失になっているペインさんとは対照的に何故かアーゼさんは嬉しそうな声色をしている。語尾に音符が付きそうなくらい嬉しそうなのだが一体何故だろう?

 まぁ、アーゼさんとペインさんの間に昔何かあったのは確かそうなので今度時間があるときに何があったのか聞くとしよう。本音を言うと無詠唱魔法の話とか色々含めて今すぐ聞きたいのだがそれよりかは私のランクがどうなるのかの方が割と大事なので今は気にしない。


「大丈夫ならよかったですけど、私のランクってどうなるんですか?」


「あぁ.....俺を倒したから最低でもSランクは確実だが.....SSランク以上になると本部の判断待ちになるな.....」

 

「じゃあSランクでお願いします。ってか出来るんだったらAランクで抑えてください.....」


 SSランクになるには冒険者ギルドの本部に情報を伝える必要があるみたいなのでこれ以上私の情報を知っている人は増やしたくないのでこれは却下。そしてそもそもSランクになること自体が嫌なのでSランクになることも出来れば却下してほしい。

 これは余談で後でアーゼさんから聞く話なのだがSランクになると二つ名が手に入るらしく、アーゼさんは炎氷の魔剣士、ペインさんが現役の時は破壊の魔導士呼ばれていたらしい。そんな二つ名欲しくないのでここで断っておいてよかったと本当に思ったのは未来の話である。


「そうか....本人が嫌がっているなら仕方ないな。公表するのはAランクにするが、俺達の中ではSランク扱いでも大丈夫か?」


「他の人に知られないのだったら私はそれで大丈夫です....」


 取り合えず一応私の及第点にはいったのでペインさんとこれ情交渉はしない。これ以上交渉してもしSランクに上がってしまった苦労が水の泡になるからだ。

 不本意ながらAランクになってしまった私だがなってしまったものはしょうがないので頑張るとしよう。

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